今回は、医療従事者におけるマスクの着用および種類が、感染症罹患の予防効果としてどの程度あるかを検討した研究をみていきます。
- 中国で行われたクラスターランダム化比較試験
- 医療従事者は、サージカルマスクより、N95のほうが感染率は低い傾向
- マスクを着用しないグループが、最も感染率が最も高い
- N95は、不快感、頭痛、圧迫感などの副作用が多い
医療用マスクやN95は、医療者にとって非常に重要です。
研究の概要
背景:
医療従事者 (HCW) における医療用マスク、 N 95マスク(フィットテスト済みおよびフィットテスト未)の有効性を比較した。
方法:
2008/2009年冬に、北京の15病院1441名の医療従事者を対象として、クラスターランダム化比較試験 (RCT) が実施された。
参加者は4週間の全シフト中に、マスクまたは呼吸器を装着した。
臨床的な呼吸器疾患 (CRI) 、インフルエンザ様疾患 (ILI) 、検査室で確定した呼吸器ウイルス感染症およびインフルエンザの発症をアウトカムとした。
マスクなしグループは9つの病院481人の医療従事者が対象で、アウトカムを比較した。
結果:
- CRI (3・9%対6・7%)
- ILI (0・3%対0・6%)
- 検査室で確認された呼吸器ウイルス感染(1・4%対2・6%)
- インフルエンザ(0・3%対1%)
感染率は、医療用マスクと比較して、N95のグループで一貫して低かった。
また、介入群と比較して、非マスク群で感染率は高かった。
フィットテストの有無は、感染率に影響はほとんどなく、フィットテストの失敗率は低かった。
また、N95マスクは不快感(41.9% vs. 9.8%)、頭痛(13.4% vs. 3.9%)、呼吸苦(19.4% vs.12.5%)、鼻の圧迫感(52.2% vs. 11.0%)を訴える人の割合が高かったです。
解釈:
医療用マスク群の感染率は、N95群の2倍であった。
N95マスクの有益性が示唆されているが、この試験は検出力が不十分であった可能性があるため、より大規模な試験で確認する必要がある。
フィットテストの結果は、研究で使用されたN95マスクの種類に特異的であり、他のN95マスクに一般化することはできない。
感想と考察
少し分かりづらい研究でした。この研究はクラスター RCTと言っていますが、ランダムにわけたのは、1) 医療用マスク、2) N95 フィットテストあり、3) N95フィットテストなし、の3つです。
ですが、なぜかコントロール(普段あまりマスクをつけないグループ)があります。確かに、マスクによる違いを比較するだけなら「ランダム化」と言ってもよさそうですが、マスクあり/なしを比較する場合は、そうは言えないですね。
まとめ
今回の研究では、医療従事者において、マスクの種類、マスクの有無により、呼吸気感染症の発症率の比較をしています。
医療従事者は、マスクを着用したほうが、サージカルマスクよりN95のほうが、感染率は低い傾向にありました。
一方で、N95マスクは、不快感、圧迫感、頭痛、呼吸苦が多い傾向にありました。
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