科学的根拠

小児の鼻洗い:保護者と子供は許容できるのか? アメリカ編

「鼻洗いをしてみましょう」と外来でお話ししても、

  •  「子供が嫌がりそうで、ちょっと…」
  •  「痛そうですし、怖そうですし…」
  •  「子供には無理じゃないですか?」

といったネガティブな反応がたくさん返ってきそうな印象です。

一応、誤解がないように先に説明をしておきますが、きちんとした濃度(0.9%〜3.0%くらい)の生理食塩水を使用すれば、鼻洗いをしても痛みを感じることはほとんどありません。
お風呂やプールで鼻に水が入ってツーンとするのは、濃度が低いためです。

私も慢性副鼻腔炎の治療と再発予防を目的に、毎日のように鼻洗いをしていますが、濃度を守っている限りは痛みは感じません。
でなければ、辛すぎて毎日鼻洗いはできないですよね。

今回は、鼻詰まりや鼻水で困っているお子さんとその保護者を対象に、鼻洗いに対してどのような先入観があるのか、どの程度子供が許容してくれるのかを報告した研究をご紹介します。

研究の方法

今回の研究は、2009-10年にかけてアメリカのシカゴで、18歳未満の小児を対象に行われた研究です。対象になったのは、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎などで、鼻閉症状を訴えている小児です。

これらの小児を対象に、まずは実際に鼻洗いの仕方を実演し(溶液の作り方、鼻洗いの仕方など)、2−4ヶ月後に鼻洗いの実感やコンプライアンスを調査しています。

研究結果と考察

最終的に61人の患者が最後の調査まで完了することができました。年齢の中央値は8歳でして、構成は以下の通りです:

  •  〜5歳:14人
  •  6〜12歳:38人
  •  13歳〜:9人

子供は許容してくれるのか?

鼻洗いを子供が許容してくれるか否か、実際に鼻洗いをする前の先入観と、実際に行った後の感想を聞いています。以下は「許容できる」と考えた人の割合(%)になります:

 
全体 28% 86%
〜5歳 21% 86%
6-12歳 24% 83%
13歳〜 56% 100%

低年齢ほど、「無理なのでは?(許容できない)」とご心配される保護者の方が多い傾向にありました。

一方で、実際に鼻洗いをしてみたところ、8割以上の保護者は「許容できる」と反応しています。

鼻の症状改善について

2〜4ヶ月後に、鼻の症状の改善を実感しているのは、

  •  〜5歳:71%
  •  6〜12歳:92%
  •  13歳〜:71%
  •  全体:84%

となっています。こちらについては、コントロール群がいないため、自然軽快や他の治療の影響を考慮できていないので、追加で検証する必要があると思います。

副作用について

鼻洗いの副作用については、以下の通りでした:

  •  耳の痛み:5%
  •  せき・嗚咽:4%
  •  嘔吐:2%

経験上ですが、いきんでいる状態で鼻洗いをすると耳の方に水が流れて耳が痛くなることがあります。

また、嘔吐してしまうケースもあるので、食後は避けたほうが良いと考えています。

考察と感想

鼻洗いは実は全然難しくない処置なのですが、保護者の方の不安が強かったり、医療者側も実際にやり方を知らなかったり、エビデンスが軽視されていたりで、なかなか行動に移すのが難しい処置なのかもしれません。

今回の研究では、実際に実演して見せることで、保護者の不安をある程度解消できるのがわかったという意味では、貴重な報告と思います。

ただし、この研究では有効性の評価は不十分ですので、この点については他の研究を見つつ、総合的な判断をする必要があります。

少しこの論文で残念だった点は、どのように保護者に指導をしたのかが、やや不明瞭な点でした。
実際にどの濃度の食塩水を、どのくらいの量で、どのように使用したのか、といった点の説明が不十分だったので、論文を読む限りでは、どのように指導したのか想像するのが難しかったです。

まとめ

今回の研究は、小児を対象に鼻洗いの許容性とコンプライアンスを調査しています。

鼻洗いをする前は、ほとんどの保護者や本人は鼻洗いに対してネガティブなイメージでしたが、実演して説明したところ、8割以上の方が実施可能でした。

有効性の評価に関しての評価は不十分で、他の研究結果を参考にする必要があります。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。