これまで、鼻洗いが小児のかぜにどの程度有効か検討した論文をいくつかご紹介してきました。
今回はシステマティックレビューとメタ解析の結果をご紹介させていただきます。
システマティックレビューでは、過去に報告された研究を、網羅的に検索し、その質を評価します。そして、最終的にメタ解析として有効性を統計学的に検討します。
対象となった研究
今回のシステマティックレビューで対象となった研究は5つあり、以下の通りです:
- Adam P, Stiffman M, Blake RL. A clinical trial of hypertonic saline nasal spray in subjects with the common cold or rhinitis. Archives of family medicine 1998;7(1):39–4
- Bollag U, Albrecht E, Wingert W. Medicated versus saline nose drops in the management of upper respiratory infection. Helvetica Paediatrica Acta 1984;39(4):341–5
- King D, Belt KM, Ware R, Askew D, Spurling G. A randomised control trial of isotonic saline nasal spray for symptoms of acute upper respiratory tract infections. Unpublished.
- Slapak I, Skoupá J, Strnad P, Horník P. Efficacy of isotonic nasal wash (seawater) in the treatment and prevention of rhinitis in children. Archives of Otolaryngology-Head and Neck Surgery 2008;134(1):67–74
- Wang YH, Yang CP, Ku MS, Sun HL, Lue KH. Efficacy of nasal irrigation in the treatment of acute sinusitis in children. International Journal ofPediatric Otorhinolaryngology 2009; 73(12):1696–701
AdamらとKingらの結果は大人がメインのものでして、小児を扱った研究はBollag、Slapak、Wangらのものでした。
BollagらのはPubmed検索でヒットするのですが原著までたどり着けず、SlapakとWangらの結果は以前、こちらの記事でご紹介させていただきました。
Wangらはこちら:
それぞれの研究で使用したアウトカムが微妙に異なるため、メタ解析の対象となったのはAdam, King, Splakらの3つのみです。
メタ解析結果について
メタ解析では、以下の2点を見ています:
- 鼻洗いはかぜ症状の期間に影響するか?
- 鼻洗いは抗菌薬の使用率に影響するか?
鼻洗いとかぜ症状の期間について
鼻洗いとかぜ症状の期間について見ていきましょう。対象となったのは、AdamらとKingらの研究です。
著者 | 生理食塩 | コントロール | ||
N | 平均 | N | 平均 | |
Adam | 43 | 9.2 (7.5) |
35 | 8 (3.8) |
King | 10 | 7.7 (3.6) |
23 | 10.5 (3.6) |
両方とも成人のデータになりますが、Adamらの研究は生理食塩水を使用した方が症状はやや長く、逆にKingらの結果は短くなっていますね。
メタ解析を再現してみましょう。
2つの治療結果が相反するので、かなり微妙なメタ解析になってしまいますが、あえて結果を示すとかぜ症状はわずかに軽快するか、ほとんど変わらない印象です。ですが、95%信頼区間は広く、不正確な結果と言えます。
抗菌薬の使用について
次に抗菌薬が後で必要になったか否かをみてみましょう。
著者 | 生理食塩 | コントロール | ||
N | Case | N | Case | |
Slapak | 288 | 16 | 101 | 9 |
King | 10 | 1 | 23 | 2 |
Slapakらの研究は小児を対象としたものです。
こちらをメタ解析すると以下のようになります:
鼻洗いをしたグループの方が、抗菌薬の投与するリスクは33%ほど減少しそうですが、95%信頼区間は広く、不正確な結果です。
考察と感想
コクランデータベースに掲載されたシステマティック・レビューとメタ解析ですが、対象となった研究数が少なすぎて、何か結論づけるのは難しく感じました。
およそですが5−6個以上の研究結果が欲しいところです。
小児と成人の結果もできれば分けて結果を見たいところですね。
まとめ
今回のシステマティックレビューとメタ解析では、鼻洗いは風邪の症状がやや短くなり、抗菌薬を投与するリスクが減る可能性はありますが、対象となった研究数が少なく、推定が不正確であるため、追加検証が必要と思われます。続報を待つことにしましょう。