- 子供の鼻水を止める薬は効かないのですか?
- 咳止めが効かないって本当ですか?
以前、こちらに関連した記事を複数記載してきました。
過去の研究結果を参考にすると、小児の鼻水を止める薬はなさそうですし、咳止めについても夜間の咳を止める薬の効果は薄く、むしろ副作用の懸念がありました。
- 薬が効かないなら、何かホームケアでできることはないでしょうか?
と質問される方もいました。
昔ながらの対処法ですが、生理食塩水を使用してかぜの症状を緩和させる方法です。
水に適量の食塩を混ぜれば、鼻に水を入れても痛みはありませんし、鼻を洗ってあげることで鼻腔が開通して、鼻水の症状が緩和することがあります。
近年はアレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎などでも使用されている方法です。
現に、私も慢性副鼻腔炎持ちで、かれこれ5−6年以上は鼻洗いをしていますが、鼻洗いをすることで症状が緩和してくれることを個人的にも実感しています。
鼻洗いが実際にどのくらいのエビデンスがあるのか気になり、今回の論文をピックアップしました。
こちらの論文では、小児に食塩水を使用して、かぜがどの程度軽快するか、さらに風邪症状の予防になるかを検討しています。
研究の方法
今回の研究は、チェコのプラハで行われた研究でして、
- 6〜10歳
- 風邪 or インフルエンザで受診
- 慢性疾患なし
- ステロイドの使用なし
を対象としています。
治療について
まずかぜに対する治療として、解熱薬、去痰薬、抗生剤などは医師の判断で処方してもらい、さらにこれに追加して、
- 鼻洗いを追加する
- 追加治療なし
のいずれかをランダムに割り当てています。
鼻洗いで使用したのは主には等張の生理食塩水ですが、以下のような組成でした:
組成 | mg/L |
Na+ | 2400 |
Cl- | 5850 |
K+ | 51 |
Ca2+ | 360 |
Mg2+ | 1300 |
SO4– | 2755 |
Fe2+ | 6 |
さらに、鼻洗いを使用するグループは3つに分かれ、
- medium jet flow:蒸気 (Jet)
- fine spray:スプレー (spray)
- 目と鼻をfine sprayで洗う(dual)
です。これら鼻洗いの使い方ですが、
- かぜの症状があるときは、1日6回
- そうでないときは、予防的に1日3回
の使用を推奨したようです。
アウトカムの評価について
合計で4回受診してもらい、
- 初診:かぜ or インフルエンザ
- 再診1:3週間以内
- 再診2:8週以降、12週以内
- 再診3:8週以降、12週以内
としています。
評価したアウトカムは
- 鼻の症状、喉の症状、咳の症状
- 鼻水の性状:なし、漿液性、膿汁
- 呼吸の症状
- 薬を使用したか
- 症状は改善したか
といった点を数値化しています。具体的には、以下の表のように分類しています:
1 | 2 | 3 | 4 | |
鼻の症状 | なし | 軽度 | 中等度 | 重度 |
鼻水 | なし | 漿液 | 中間 | 膿性 |
呼吸の症状 | なし | 少し 辛そう |
かなり 辛そう |
困難 |
健康状態 | 治癒 | かなり 改善 |
一部 改善 |
変化なし |
研究結果と考察
最終的に390人が評価の対象となりました。
- 年齢:平均8歳
- 男女比:男児が数%ほど多い
- それぞれの症状はほぼ同じ
- 薬の使用歴もほぼ同じ
でした。
急性期の症状(鼻風邪やインフルエンザ):2回目の受診
一部の症状を抜粋して報告します
Control | Jet | Spray | Dual | |
咽頭痛 | 1.23 | 1.08 | 1.07 | 1.11 |
咳 | 1.38 | 1.21 | 1.22 | 1.25 |
鼻汁 | 2.10 | 1.76 | 1.86 | 1.74 |
薬の使用 | ||||
解熱薬 | 12.9% | 5.1% | 7.4% | 10.5% |
充血除去 | 35.6% | 15.2% | 13.7% | 18.9% |
去痰薬 | 31.7% | 15.2% | 14.7% | 22.1% |
抗生剤 | 8.9% | 7.1% | 6.3% | 3.2% |
鼻に生理食塩水を使用しなかったグループ(Control)と比較して、鼻を洗ったグループは、
- 咽頭痛は軽減
- 咳はあまり変わらず
- 鼻水も軽快
する傾向にありました。
薬の使用率は生理食塩を点鼻したグループの方が、いずれも明らかに低いですね。
予防効果について:3〜4回目の受診
3回目の受診のアウトカムを一部提示すると、以下のようでした
薬の使用 | ||||
解熱薬 | 32.7% | 9.1% | 8.4% | 10.6% |
充血除去 | 46.5% | 6.1% | 6.3% | 3.2% |
去痰薬 | 36.6% | 9.1% | 9.5% | 10.6% |
抗生剤 | 20.8% | 4.0% | 5.3% | 7.4% |
このように、薬の使用に関しても、鼻に生理食塩水を使用したグループの方が、
- 解熱薬の使用率が低い
- 去痰薬の使用率が低い
- 抗生剤の使用率が低い
と、薬を使用する確率が減っています。
Control | Jet | Spray | Dual | |
その他 | ||||
病気あり | 75.2% | 27.3% | 34.7% | 30.9% |
欠席 | 34.7% | 16.2% | 13.7% | 21,3% |
合併症 | 31.7% | 8.1% | 7.4% | 9.6% |
鼻に生理食塩水を利用したグループの方が、
- 欠席率が低い
- 合併症のリスクが低い
と出ています。(明記されていませんが)合併症は、中耳炎、副鼻腔炎や気管支炎などを指標にしていたようです。
4回目の受診の際も同じ項目を見ていますが、
Control | Jet | Spray | Dual | |
その他 | ||||
病気あり | 52.5% | 22.2% | 22.1% | 22.3% |
欠席 | 24.8% | 7.1% | 8.4% | 10.6% |
合併症 | 13.9% | 6.1% | 3.2% | 3.2% |
となっています。やはり鼻洗いをした3グループの方が欠席や合併症の率が低いですね。
異なるデバイスへの評価
異なるデバイスへの評価ですが、以下の図のようになります(論文より拝借):
Jetタイプのものは評価が悪く、スプレー形式で点鼻した方が患者の不快感は低かったようです。
効果が似たようなものであるなら、患者さんにとって不快感の少ないスプレー形式で点鼻しても良いかもですね。
考察と感想
今回の研究では、生理食塩水を点鼻すると、咳、鼻汁、咽頭痛などの症状を軽快させる他、薬の使用率や欠席率まで下がる印象でした。
研究の対象が6歳以上である点は留意しておくべきと思いました。
小児でも乳幼児と学童では、鼻の構造がやや異なるため、同じような結果が得られるかどうかは、なんとも言えません。(有効である可能性はそれなりに高いとは思いますが…)これに関しては、別の研究を探してみることとします。
使用された機器についてはあまり詳しい記載がありませんでしたが、ジェット式は9mlの生理食塩水を一度に水鉄砲のように噴射するタイプか、あるいはミスト状になるものなのかは、ちょっと分かりづらかったです。(詳しい方がいたら、教えてください)
この辺り、写真や商品名を論文に載せてくれるとありがたかったと思います。
ですが、スプレータイプでも十分効果はありそうですし、患者さんの不快感は少なかったため、こちらでも良いのかと思いました。
私も、鼻の症状がひどい時は、こちらのボトルに生理食塩水を入れて持ち運んでいることもあります。
まとめ
今回の研究では、チェコで6〜10歳のかぜの小児を対象に行われました。
生理食塩水を点鼻すると、咳、鼻汁、咽頭痛などの症状を軽快させる他、薬の使用率や欠席率まで下がる印象でした。
乳幼児でも同様の効果があるのかは、他の研究結果も参考にしたいと思います。