今回の研究は、オランダで行われた、流水とハンドソープ+アルコール手指消毒を用いた指導が、保育所での胃腸炎や感冒の感染率を低下するか検討しています。
先にこの研究の結論とポイントから述べましょう。
- クラスターRCTで手洗いの感染予防効果を検証
- 手洗い講習をすると、胃腸炎の感染率はわずかに低下?
- この推定は不正確
乳幼児はアルコール手指消毒のほうが有効性は大きそうです。一方で、消毒液を介した事故が起こらないよう、大人がきちんと管理する必要があります。
研究の概要
研究の背景と方法
感染症は保育所に通う小児によくみられます。
子供の胃腸と呼吸器感染症の発生率を低下させるため、保育所の職員に手指衛生を指導する介入が行われ、その効果を評価しています。
介入はクラスター・ランダム化比較試験で評価されています。介入は以下の通りです:
- 介入:36の保育所に、手洗い製品、トレーニングセッション、ポスター/ステッカー
- コントロール:35の保育所は、これまで通り過ごしてもらう
となっています。
小児における下痢および感冒のエピソードの発生率を6カ月間親がモニターした。
効果推定は、多変量ポワソン回帰モデルを用いて、発生率比と95%信頼区間(CI)を計算しています。
結果
545人の乳幼児を対象に、91,937日間モニターした。
追跡期間中、発生率は介入グループで小児年当たり3・0エピソード/人年であったのに対し、コントロールグループでは3・4エピソード/人年であった。
IRR(Incidence Rate Ratio)は、0·90 [95%CI、0·73–1·11]でした。
541人の小児における感冒(急性上気道炎)の発生率を、合計91,373日間モニターした。
発生率は、介入グループで8・2エピソード/人年、コントロールで7・4エピソード/人年でした。(IRR1.07、95% CI0.97〜1.19)。
この試験では、下痢においては10%ほど感染率の低下を認めていますが、95%信頼区間は広く、この推定は不正確です、感冒に関しては、ややリスクが上昇するか、ほとんど効果がない結果となっています。
結論
この研究は、保育に従事する職員や小児に感染管理の教育をすることは、下痢に関してはややリスクが低下するかもしれませんが、感冒に関してはほとんどリスクが変わらない結果です。
感想と考察
今回は、2歳未満は手洗いの指導が難しい年齢なのか、あまりよい成績ではなかったです。手洗いしようにも、中途半端で終わってしまう可能性もあるので、手指消毒剤を使用したほうが効果的だったのかもしれません。
まとめ
乳幼児のいる保育所を対象に、石けんと流水の有効性を検討した研究です。
手洗いの指導を行った施設のほうが胃腸炎の発症率はわずかに低い傾向にありましたが、やや推定は不正確な結果でした。
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