前回までは急性中耳炎の治療に抗ヒスタミン薬を追加しても、どうやらはっきりとした有効性はなさそうという結果を解説してきました。
滲出性中耳炎(中耳に液体が溜まった状態)においても、抗ヒスタミン薬にあまり有効性がなさそうという研究も複数あります。
しかし、これらの治療は短期的に評価されたものがほとんどで、半年〜1年後に渡り長期的な効果があるのかははっきりしていません。そこで今回の研究をご紹介します。
O’Shea JS, et al. Childhood serous otitis media: fifteen months’ observations of children untreated compared with those receiving an antihistamine-adrenergic combination.Clin Pediatr (Phila). 1982;21:150-3.
市販の小児の風邪薬にも抗ヒスタミン薬とアドレナリン作動薬が含まれていることがあります。
滲出液を減らすのに抗ヒスタミン薬を使用し、充血を除去するためにアドレナリン作動薬を使用すれば、機序としては治りそうな印象ですが、実臨床で本当に有効か否かを検討する必要があります。
研究の方法
今回の研究は、1977年に行われたランダム化比較試験(RCT)で、
- 3ー9歳
- Rhode Island Hospital(アメリカ)に受診
- 発熱がない
- 片側 or 両側の中耳に液体貯留あり
- 聴力低下あり
- ティンパノグラムで異常あり
を対象に行われています。
治療は、
- ジフェンヒドラミン+pseudoephedorine(偽性エフェドリン)
*「プソイドエフェドリン」と言う方もいるようですが、発音がおかしいので敢えて英語のまま記載します。ご容赦ください。 - プラセボ(偽薬)
のいずれかにランダムに割付しています。
治療は3ヶ月間行っています。その後、1年ほど追跡をし、その間に聴力などがどのように変化したのかをみています。
研究結果と考察
48人の患者が追跡の対象で、24人が治療薬を、残りの24人がプラセボ(偽薬)を3ヶ月間投与されていました。
この3ヶ月間で、新たな治療が必要となった小児はいなかったようです。
聴力の改善
聴力の改善をそれぞれのグループで見ると、以下のようになりました。
治療 | プラセボ | |
改善 | 4.0 | 6.6 |
(SD) | (11.1) | (13.6) |
プラセボグループの方が若干改善していますが、統計学的な有意差はありません。
聴力低下が持続していた小児は、以下の通りになります。
治療 | プラセボ | |
持続 | 9 | 6 |
全体 | 24 | 24 |
治療群の方が聴力低下が持続した人の割合は若干多いのですが、両者に統計学的な有意差はありません。
学業成績について
学業成績についての改善率も見ており、以下の通りとなります。
治療 | プラセボ | |
改善 | 13 | 14 |
不変 | 5 | 8 |
悪化 | 1 | 1 |
両グループとも同じような結果でした。
その他
治療 | プラセボ | |
再発 | 6 (25%) |
8 (33%) |
外科処置 | 8/48 |
再発率も30%前後で両者に統計学的な差はありませんでした。
外科処置が必要だったのは48人中8人でした。
まとめ
今回の結果から、滲出性中耳炎に抗ヒスタミン薬やアドレナリン作動薬を使用しても、長期的なメリットもなさそうな結果でした。
1970年代の古い論文ですが、その後もどのように治療が変わってきているのか、どのような研究が行われているのかを、今後もお伝えしていきたいと思います。