- 「胃腸炎に整腸剤や亜鉛を追加すると下痢の期間が短くなる」
とひょっとしたら聞いたことがあるかもしれません。
整腸剤は乳酸菌やビフィズス菌、日本だと宮入菌あたりが有名どころですが、これまでの研究結果を見たところ、ケースバイケースのようです。
つまり、入院患者で使用するのか、外来で使用するのか、原因となった病原体が何か、でやや効果がことなりそうな印象を受けています。
亜鉛は小児の下痢で使用されることがありますが、有効性に関しては途上国での研究結果がほとんどです。先進国では小児が亜鉛が不足しているケースは多くはなく、有効性に関してははっきりしていないです。小児科外来でもあまり処方されるケースは少ないでしょう。
近年、Lactobacillus reuteri (L. reuteri) ATCC 55730と呼ばれる乳酸菌が臨床研究で下痢の期間を短縮させると報告されてきましたが、問題点があり、テトラサイクリンやリンコマイシンに対する耐性を誘導してしまう可能性があるようです。
このため、L. reuteri DSM 17938という別の菌株を使って研究をする必要性が出てきています。
さらに、乳酸菌 + 亜鉛という組み合わせでの効果(英語でJoint Effectと言います)を評価した研究も少なく、今回は検証されたようです。
研究の方法
今回の研究は、ギリシャの小児科外来で行われた二重盲検化ランダム化比較試験で、
- 生後6〜36ヶ月
- 過去24〜48時間以内での下痢
- 脱水がひどくない(Bailey scale scoresが4点以下)
- 慢性疾患なし
- 重篤な感染症でない
- 抗菌薬や止瀉薬を使用していない
などを対象に研究が行われました。治療は
- ORS + 乳酸菌 + 亜鉛
- ORSのみ
のいずれかにランダムで割付ています。使用した薬の組成は以下の通りです(原著より拝借)
アウトカムについて
研究のアウトカムは、
- 治療2日後の下痢の割合
- 下痢の重症度
- 嘔吐回数
- 入院率
- 保護者の欠勤日数
- 本人の病欠日数
となります。
研究結果と考察
最終的に51人が研究に参加しました。治療の内訳は、
- ORS + 乳酸菌 + 亜鉛:28人
- ORSのみ:23人
となります。
平均年齢は1.8歳、性別は男児が7割、女児が3割でした。
下痢の回数と治癒率について
(表は原著より拝借)
下痢の回数はテーブルの左側になります。
乳酸菌と亜鉛を追加された患者のほうが、下痢の回数はやや少ない傾向にはありますが、統計学的な有意差はありませんでした。
また、治癒率に関しても類似の傾向で、乳酸菌+亜鉛の方が治癒率はやや高く見えますが、こちらも統計学的な有意差はありません。
下痢の重症度
(図は原著より拝借)
こちらは下痢の重症度を比較しています。
ORS単独、ORS + 乳酸菌 + 亜鉛でも下痢の重症度は改善しています。
治療グループで比較をしていますが、乳酸菌と亜鉛を入れたグループの方が2点ほどスコアが改善していますが、統計学的な有意差はありませでした。
考察と感想
著者らも論文中に述べていますが、サンプル数がやや少なかったため、統計学的な比較がやや不正確になっています(不正確とは、信頼区間が広いという意味です)。
そのせいか、乳酸菌と亜鉛を追加したグループの方がほぼ全ての項目で成績は良いにも関わらず、統計学的な有意差を検出することはできませんでした。
よくP値のみをみて、基準(0.05など)より上か下かで、有効性あり/なしを判断している人がいます。実際、統計学や疫学を多少知っている方でも同じような誤った判断をしているケースもあります。
もちろん統計学的な有意差のある/なしは大事なのですが、必ずしも有効性のある/なしとイコールにならないことがありますので、この辺りは短絡的になりすぎないように注意する必要があります。
今回の研究を例にすると、それぞれの点推定を比較すれば、乳酸菌+亜鉛を使用したグループの方が成績は良さそうに見えます。
しかし、推定が不正確であるため、信頼区間は広く、統計学的な有意差はありませんでした。
過不足なく説明をすると、こんな感じでしょうか。
「P値が有意水準より上だから、無効である(有効性がない)」と発信するのと、随分と印象が異なるのが理解いただけると思います。
まとめ
今回の研究では、ギリシャの6〜36ヶ月の乳幼児の下痢を対象に行われています。
ORSに乳酸菌と亜鉛を追加していますが、下痢はやや軽快しているようには見えますが、推定の正確性に問題があり、有効性をはっきりと確認することはできませんでした。
この結果だけでは有効・無効を語るのは難しく、さらなる研究が必要でしょう。