脳貧血・起立性低血圧のまとめ
- 一般の方のいう「貧血」は医学的に「起立性調節障害(脳貧血)」
- 10代の女児に多い
- こどもの失神の50%程度を占めます
- Bezold-Jarisch反射という、全身の血管の緊張の変化によって起こる
- 起立時に、血圧調節ができずにふらつくのです
典型的な例
中学生女子。
朝礼など学校で長時間にわたり起立して、じっとしているときに倒れてしまいます。
新学期から、朝起きるのが辛くなり、遅刻が目立つようになりました。
このため、1週間のうち半分程度は欠席するようになりました。
本人的には、「朝、起きようとすると、頭痛・動悸・たちくらみする」ようです。
本人・家族とも困り果てて、母親につれられて病院に相談にきました。
というのが典型的な症例です。
起立性調節障害ってどんな病気ですか?
主に自律神経の機能低下によりおこります。
つまり、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて、脳や内蔵にいく血流に不均衡が生じ、ずっと立っていると気分が悪くなったり、立ちくらみをしたり、倦怠感がでます。
それ以外に、失神、慢性疲労、動悸、寝付きが悪い、思考力の低下、成績不振、頭痛、腹痛など色々な不定愁訴がでます。
春から夏に悪化する傾向があります。
起立性調節障害は増加傾向
近年、起立性調節障害は増えています。
勉強・学校・家庭でのストレス、夜型の生活環境、運動不足が影響しているせいか、急増しています。
中学生の1割くらいが起立性調節障害で悩んでいます。
女児は男児の2倍といわれています。
起立性調節障害(脳貧血)が起こりやすい環境
起立性調節障害が起こりやすいのは:
- 長時間の立位
- 高温多湿な環境
- 市販薬を使用後
- 疼痛、恐怖など感情による刺激
- 咳、髪をとかす、尿をした後
に多いです。
脳貧血・起立性調節障害の前駆症状(前触れ)
起立性調節障害には以下のような前駆症状を認めることが多いです:
- めまい、浮遊感
- 視覚、聴覚の変化
- 頭痛 ・悪心、頭痛
- 暖かい感覚
- 発汗
などが代表的です。
脳貧血・起立性調節障害の症状
体がフラフラして、頭が真っ白になり、最後は意識を消失して倒れます。
倒れた時は、本人は意識を失っているため、何も覚えていないことが多いです。
周りの人から、『顔が真っ青』『皮膚が冷たかった』『冷や汗をかいていた』といわれることが多いです。
痙攣のように、無意識にピクピクと手足が小刻みに動くこともあります。
意識が回復した後
意識を回復した後も、元通りになるのでなく;
- 倦怠感(だるい)、めまい
- 筋緊張低下(力が入りづらい)
- 頭痛、悪心
などの症状が続くことが多いです。
起立性調節障害の診断基準
日本小児科学会が出している診断基準は以下の通りです。
[大症状]
A. 立ちくらみ or 目眩をおこしやすい
B. 立っていると気持ち悪くなる、ひどいと倒れる
C. 入浴時 or 嫌なことを見聞きすると気持ち悪くなる
D. 少し動くと動悸・息切れがする
E. 朝はなかなか起きられない。午前中は調子が悪い。
[小症状]
a. 顔色が青白い
b. 食欲不振
c. お腹に強い痛みがときどきある
d. 倦怠 or 疲れやすい
e. 頭痛をよく訴える
f. 乗り物に酔いやすい
g. 起立試験で脈圧が狭小化:16 mmHg以上
h. 起立試験で収縮期血圧低下: 21 mmHg以上
i. 起立試験で脈圧増加 1分 21以上
j. 起立試験で立位心電図 T II の 0.2 mV以上の減高、その他変化
となっています。
確定診断には:
- 大症状 3つ以上
- 大症状 2つ + 小症状 1つ以上
- 大症状 1つ + 小症状 3つ以上
とを満たすときです。
起立性調節障害の予防・治療
治療のポイントを説明していきます。
残念ながら、起立性調節障害は、検査をして、薬を飲めばすぐに治るものではありません。
生活習慣なども関わっているため、治療は長くかかることが多いです。
焦らず、気長に付き合って、徐々に改善させるようにしましょう。
保護者・学校の先生を含め、病気を理解しましょう
まずは病気への理解がとても重要です。
そもそも起立性調節障害は体の病気です。
決して怠け心から来ている病気でないことを保護者が理解してあげましょう。
本人・家族・学校の先生と、皆さんがきちんと理解する必要があります。
治療には時間がかかることが多いので、周囲の方が理解し共感し、本人が焦らずにゆっくりと治していく環境が必要です。
起立性調節障害の予防・治療
最初は、薬に頼らない治療から始めるのが一般的です。
いきなり薬に頼るより、こちらのほうが、安心・安全・確実です。
そもそも、起立性低血圧になるのは、血圧の調節が上手くいっていないのです。
心臓と血管にで血圧は一定に保たれるよう仕組みができています。
血圧が変動しやすいタイミングを知る
まずは、血圧が起立や体位で変動しすぎないように、色々と工夫をしてもらいます:
- 起立・起床時は30秒以上かける
- 長時間立つ時は、足踏みをする
- 日中はゴロゴロせず、最低でも椅子に座る
- 早寝早起きをする
をまず試してみましょう。
足を鍛えよう
血圧の調節で注目して欲しいのは『足』です。
『足は第2の心臓』といわれるくらい、足の筋力が血圧の調節に非常に重要な役割を担っています。
- 15分〜30分程度の有酸素運動(散歩やスイミング)をする
- 外で歩くのが辛ければ、ランニングマシーンでもOK
- 関節が痛いなら、水中ウオーキングをする
がよいでしょう。
学校を休んだ日も、祝日・休日も、毎日続けられると良いでしょう。
脱水予防も重要
脱水になると血圧は低下しやすくなります。
特に夏場は汗をかいて水分がなくなりやすいので;
- 塩分・水分をしっかりとる
ことを習慣づけましょう。
学校にはお茶でなく、塩水や経口補水液を持っていくようにしましょう:
血圧の変動は、 弾性ストッキングや加圧式腹部バンドを使用すると軽快することがあります。
学校の先生にも協力してもらいましょう
かかりつけの医師にお願いして、診断書を書いてもらい、学校の先生にも病状を理解してもらいましょう。
学校の先生は、病気・健康のプロではありませんから、「怠けもの」と勘違いしている方がかなりいます。
学校生活を送る上でも、こどもの安心にもつながりますので、少なくとも私は診断書を書きますし、必要なら学校の先生と電話上で話すこともあります。
学校では;
- 起立した姿勢を3分〜4分以上続けない
- 極端な暑さを避ける
- 辛い時は、激しい運動を避ける
ようにするとよいでしょう。
それでもダメなら内服治療を
あれこれと予防策をしたり、生活習慣を見直しても一向に改善しない場合は、薬物治療をされるとよいでしょう。
(ですが、初診で、いきなり薬を処方してもらって治そうとするのは避けた方がよいです)
薬を始める前に、薬には副作用がある、生活習慣が改善されないと薬の増量が必要になる、薬をやめたとたんに症状がぶり返してしまう、といったことも理解しましょう。
薬はいくつか選択肢があります
薬のオプションはいくつかあります。処方する医師によって、好みが別れます。
(ERの小児より抜粋)
心理療法
心理的な側面と起立性低血圧が非常に強いと疑われた場合は、心理療法が必要になることがあります。
この場合、小児科では対応できないことがあるため、心療内科や児童精神科に相談させていただくことが多いです。
普段、小児科から専門科へ紹介しているのは、適切な治療を進めているのに1ヶ月〜2ヶ月で改善がない 1ヶ月以上の不登校がでている状態です。
◎ 特に暑い夏は起立性低血圧が悪化しやすいです。お子さんには必ず水筒をもたせ、こまめに水分を摂取するようにしましょう。汗をかくと、血管の中が脱水になり、血圧が不安定になりやすくなるためです。しっかし水分・塩分を摂って、血管の中を潤しましょう。