日本では小児医療には助成制度が導入されており、年齢の上限は違えど、ほぼ全ての自治体で導入されています。
この制度は子育て世代の経済的な負担を軽減したり、医療へのアクセスの障壁を取り除くといった効果があるかもしれませんが、逆に過剰な医療を招いたり、過剰アクセスによる小児科の負担を招いているのかもしれません。
過去20年間で、この制度の是非を問うた研究は複数あります。今回はその1つをご紹介しようと思います。
- 自己負担によって、軽度 or 重度のかぜ症状において、医療のアクセスが変化するか調査した横断研究
- 軽度のかぜ症状において、一部自己負担は医療機関への受診を抑制する
- 重度のかぜ症状であれば、一部自己負担があっても、医療機関への受診はあまり抑制されない
Subsidy and parental attitudes toward pediatric health care in the Tokyo metropolitan area. Pediatr Int. 2016 Feb;58(2):132-8.
小児への医療費助成は、medical subsidyとかfree medical certificateと英訳されているようですね。
小児医療の一部負担は、かぜ症状における医療アクセスを変化させるか?
研究の背景/目的
日本では,子供に無料医療を提供する自治体の数が増加している。
しかしながら,この方針は,日本の小児外来サービスの過密状態を意図せず悪化させる可能性がある。
著者らは,子供の症状の重篤度および自己負担の量,ならびに親の社会経済的および人口統計学的因子に従った, 保護者の医療を求める態度の間の関連性を調査した。
研究の方法
東京および近隣地域に住んでいる4385人の25歳から50歳の年齢の層別無作為抽出よりなる,層別,健康,収入および近隣の日本研究 (J‐SHINE) のデータを用いた。
アウトカムは,小児の軽度および重度の感冒症状に対して、回答者の医療を求める態度であった。
各従属変数についてロジスティック回帰モデルを使用した。
研究の結果
合計1606人の回答者が分析に含まれた。
軽度のかぜ症状
軽度のかぜ症状であった場合、「その日に受診する」と回答するオッズは、100%の補助金と比較して、
- 補助金なし:OR:0.51, 95% CI:0.38~0.69
- 部分的な補助金:OR, 0.71; 95CI:0.54~0.9
は低いオッズでした。
重度のかぜ症状
重度のかぜ症状において、その日に受診する」と回答するオッズは、100%の補助金と比較して、
- 補助金なし:OR:0.61, 95% CI:0.30~1.23
- 部分的な補助金:OR, 0.91; 95CI:0.40-2.07
は低いオッズでした。
結論
小額の自己負担を課すことは,軽度の感冒症状のための医療施設への受診を防ぐかもしれないが, 重度の感冒症状のための受診を防ぐことはなさそうである。
考察と感想
少額の自己負担は、軽度のかぜ症状の受診は抑制するものの、重度であれば抑制効果はほとんどないという結果でした。
重度であれば受診はされた方が良いと思うので、望ましい結果と言えます。
2000年代から小児への医療費助成が始まり、様々な自治体で導入されています。
一方で、この政策に対する是非は昔から議論されています。
一般論として、全員に一律の無料化は、過剰な医療アクセスを招き、不要な医療サービスを招くため、あまり望ましくなく、対象となる年齢や所得の制限は必要と考えられています。
まとめ
少額の自己負担は、軽度のかぜ症状の受診は抑制するものの、重度であれば抑制効果はほとんどないという結果でした。
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