EBMとは、「Evidence-Based Medicine(科学的根拠に基づいた医療)」のことを指します。
薬剤疫学は、薬に関するデータを扱う疫学のため、EBMとも非常に密接に関連しています。
今回は、EBMについて少し考察をしてみようと思います。
EBMの役割とは?
EBMの役割ですが、
- 研究と臨床診療の間のギャップを埋める
- それによって健康を改善し
- 利用可能な最良の科学的証拠に基づく医学的決定を可能にすること
とされています。
医療という性質上、経験の重要性は否定はしませんが、直観、臨床経験、および病態生理学的根拠は、臨床的意思決定には不十分と考えられています1。
エビデンスに基づく医療の基盤ですが、質の高い系統的なレビューを行なった「文献」 は臨床の意思決定の基礎とすべき、とされています。
かつては、医師自身による「私の医療」「私はこう考える」といった、医師自身の経験に基づいた医療こそが、患者や社会にとって良いこと考えられていた時代もありました。
しかし、現代ではその流れは逆になってきており、『「科学的に証明された医療・有効性が示唆された治療」は、私の患者のために有益かもしれない』という考え方が主流になっています。
このように時代が変化した理由ですが、一人の医師が提供できる治療数の限界と言えます。
一人の医師ができること、使える医療資源は有限であり、急速には拡大はしません。このため、医療技術の発達による需要の拡大に応じることが、一人の医師の経験則では非常に非効率的であるからです。
新しい臨床パラダイム
1990年代後半より、EBMの推進が高まり、様々な発言がされています。
「…。臨床医は、合理的な医療コストで「危険性より有益性が高い」という強いエビデンスがある医療行為に、医療資源が費やされるように、医療サービスのバランスを変える努力が必要である(Gray JAM ZaeFQ 1999; 93:392-394)。」
「優れた臨床医は、常に個々の患者に特有の 「ソフト・データ」 を使用している。臨床医が患者ケアにおいて個々の意思決定を行うとき、データで示されたパターンを知ることによって、サブグループによって異なる治療の反応性や予後を区別することが可能となります2」
エビデンスに基づく医療のための方法論や枠組み
EBMの実戦では、「臨床上の問題」を「解決可能な問題」に変換することが求められます。
例えば『「55歳の閉経後女性、骨折の家族歴があり、GERDの薬を服用している。tスコアが2.0未満」に対する治療選択肢は何か?』という解決可能な問題にすることが求められています。
そして、最良のエビデンスを探索し、エビデンスを批判的に評価し、最終的に評価された情報を臨床現場で適用することになります。
エビデンスに基づいた医療を実践するために必要なスキル
EBMを実践するために必要なスキルですが、
- 患者の問題を定義する能力
- 問題を解決するために必要な情報を評価する能力
- 文献を効率的に検索する
- 最適な関連研究を選択する判断力
- ルールに則って、エビデンスの妥当性を判断する能力
- 臨床で必要なメッセージを抽出し、患者の問題に適用する能力
などの全てが該当します。
特に「文献を効率的に検索し、最適なエビデンスを吟味する」過程には、システマティック・レビューとメタ解析に類似した能力が要求されます。
システマティックレビューとメタ解析について
システマティックレビューとメタ解析については、こちらの記事を参考にしていただければと思います。
メタ解析に対する批判
メタ解析とは、いくつかの独立した臨床試験の結果を、分析者が統合した可能と判断した場合に、結果を統合する統計解析のことで、多くの医療に関わる専門職の方々が参考にする研究です。
しかし、メタ解析に対する批判もあります。
例えば「メタ解析は個々の患者を治療するための健全な礎ではない。実際、メタ解析を、そのような方法で用いられるならば、臨床診療の問題点を、個人から公衆衛生の課題へとシフトさてしまう。」などと述べる研究者もいました3。
あるいは「多様性のある集団の中で、さらに複数の療法を受けている患者のにおいて、メタ解析から示唆された『平均的な治療効果』とは、いったい何であろうか?」と、結果の解釈に対する疑問も投げかけられています4。
一方で、統計や疫学などアカデミアにいない方々、非医療従事者などは、メタ解析の定義について、少々誤解のある表現をしているようです。例えば、Wall Street Journalには「メタ解析は、通常は研究者または政府機関によって実施されるが、ときに不完全または異論が生じることがある結果である。しかし、研究のデータは、途方もなく複雑なモデルを使用して、それがコンピューターで処理され、信じられないほどの正確さの結果を生み出す。」など、少し煽ったような言葉が並べられています。
なぜメタ解析をするのか?
批判に対して、「なぜメタ解析をするのか?」を考えてみましょう。
統計学や疫学的な観点からすると、
- 統計的検出力の増大
- 研究が一致しない場合の論争の解決
- 治療効果の推定値の改善
- 個々の研究でこれまで提起されていなかった新たな疑問に答えること
が該当します。
また、上で述べられていた疑問に関しては、メタ解析の方法論そのものの問題点にも該当します:
- 出版バイアス
- 異質性
- 患者背景の違い
- エンドポイントの定義が異なる
- 研究の質が異なる
- 固定効果とランダム効果
などです。
ここの問題点は、すでにブログで記載しているので、そちらを参照されてみてください。
おわりに
今回は、EBMとメタ解析に関して簡単に説明しました。
次回は、薬剤疫学における研究デザインを少し解説できればと思います。
参考文献
- Antes G, Galandi D, Bouillon B. What is evidence-based medicine? Langenbeck’s Arch Surg. 1999;384(5):409-416. doi:10.1007/s004230050223
- Feinstein AR, Horwitz RI. Problems in the “Evidence” of “Evidence-Based Medicine.” Am J Med. 1997;103(6):529-535. doi:10.1016/S0002-9343(97)00244-1
- Goodman NW. Criticizing Evidence-Based Medicine. Thyroid. 2000;10(2):157-160. doi:10.1089/thy.2000.10.157
- Horwitz RI. “Large-scale randomized evidence: large, simple trials and overviews of trials”: discussion. A clinician’s perspective on meta-analyses. J Clin Epidemiol. 1995;48(1):41-44. doi:10.1016/0895-4356(94)00171-l