妊娠初期の麻酔と胎児の先天性心疾患リスクとの関連性を検討したユニークな研究をご紹介します。
-
カナダで行われた縦断研究
-
胎児の心臓の発達の重要な時期に全身麻酔を行うと、先天性心欠損症のリスクが高まる可能性が
Auger N, Carrier FM, Arbour L, Ayoub A, Healy-Profitós J, Potter BJ. Association of first trimester anaesthesia with risk of congenital heart defects in offspring. Int J Epidemiol. 2022 Jun 13;51(3):737-746. doi: 10.1093/ije/dyab019. PMID: 33655302.
2022年にIJEから公表されたようです。
妊娠初期の麻酔と胎児の先天性心疾患リスクとの関連性[カナダ編]
研究の背景/目的
相当数の妊婦が産科以外の手術で麻酔を必要とするが、胎児の心臓の発達に対するリスクは不明である。我々は、妊娠第1期の麻酔と生まれてきた子どもの先天性心疾患リスクとの関係を評価した。
研究の方法
1990年から2016年の間にカナダ・ケベック州の病院で生児出産に至った2,095,300件の妊娠について縦断的コホート研究を行った。
胎児の心形成のcritical periodである妊娠後3~8週の麻酔を含む,第1期で全身麻酔または局所・領域麻酔を受けた女性を特定した。
主なアウトカム指標は、子孫の重大な心臓障害と非重大な心臓障害とした。母体特性を調整した対数二項回帰モデルを用いて、妊娠初期の麻酔と先天性心疾患との関連についてリスク比(RR)および95%信頼区間(CI)を推定した。
研究の結果
麻酔に曝露された乳児1万人当たりの先天性心疾患は107.3人であったのに対し、曝露されていない乳児1万人当たりの先天性心疾患は87.2人であった。妊娠後3週から8週の間の麻酔は、麻酔を行わない場合と比較して、先天性心欠損症のリスクが1.50倍(95%CI 1.11-2.03)であった。
妊娠後5週から6週の間の麻酔は、1.84倍の先天性心欠損症のリスクと関連した(95%CI 1.10-3.08)。
関連は主に全身麻酔によってもたらされ、妊娠後5週と6週の間のリスクは2.49倍であった(95%CI 1.40-4.44)。
結論
胎児の心臓の発達の重要な時期に全身麻酔を行うと、先天性心欠損症のリスクが高まる可能性がある。
麻酔薬が心臓の催奇形物質であることを確認するために、さらなる研究が必要である。
考察と感想
妊娠初期の麻酔と子どもの心奇形についてはあまり考えたことがなかったので驚きの結果でした。
なぜ妊娠初期に麻酔をうけなければならなかったのか、またそうした人が麻酔を受けなかった人と比較可能なのかなどは考慮すべき問題が残っているようにも感じます。
まとめ
カナダで行われた縦断研究で、胎児の心臓の発達の重要な時期に全身麻酔を行うと、先天性心欠損症のリスクが高まる可能性があるようです。
ただこの研究だけで結論づけるのは早いので、さらなる研究結果を待とうと思います。
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
絵本:めからはいりやすいウイルスのはなし
知っておきたいウイルスと体のこと:
目から入りやすいウイルス(アデノウイルス)が体に入ると何が起きるのでしょう。
ウイルスと、ウイルスとたたかう体の様子をやさしく解説。
感染症にかかるとどうなるのか、そしてどうやって治すことができるのか、
わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/11/21 09:53:24時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:はなからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、鼻かぜについて、わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/11/21 13:16:41時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:くちからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、 胃腸炎について、自然経過、ホームケア、感染予防について解説した絵本です。
(2024/11/21 13:16:42時点 Amazon調べ-詳細)
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/11/21 01:00:58時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
noteもやっています