胃腸炎の治療で最も画期的な変化が起こったのは、プロバイオティクスの発明ではなく、経口補水液の導入です。
経口補水液をこまめに摂取することで、下痢によって失われた水分・塩分・糖分を補給することができます。
プロバイオティクスは補助的な治療になりますが、下痢の期間を短縮させる効果があるかもしれません。この種の研究は1990年代から活発に行われて今に至ります。
小児では倫理的な問題など様々な制約が多い中、プロバイオティクスに関しては豊富に研究がされています。
研究の方法
この研究は1989年にフィンランドで行われ、
- 4ヶ月〜45ヶ月
- 7日未満の下痢
- 1日に3回以上の下痢がある
などを対象に行われています。
治療は、
- Lactobacillus GG入りのミルク
- Lactobacillus GGの粉末
- プラセボ
のいずれかをランダムに割り当てています。
アウトカムについて
アウトカムは、
- 下痢の期間
- 下痢の回数
- 入院期間
- 嘔吐の回数
などを計測しています。
研究の結果と考察
最終的に71人が研究に参加し、プロバイオティクス入りのミルクに24人、粉末は23人、プラセボは24人でした。
患者のベースラインは、月齢の平均は10.9ヶ月〜17.7ヶ月と3グループでやあばらつきがありました。一方で、治療開始までの下痢は2.4〜2.7日とほぼ同じでした。
また、本研究の82%はロタウイルスへの感染が証明されています。
下痢の期間と入院日数
下痢の期間と入院日数の結果は以下の通りでした:
プロバイオティクス | あり (ミルク) |
あり (粉末) |
なし |
下痢の期間 | 1.4日 (0.8) |
1.4日 (0.8) |
2.4日 (1.1) |
入院日数 | 3.5日 (1.6) |
3.2日 (1.2) |
3.6日 (1.4) |
下痢の期間については、プロバイオティクスを使用したグループの方が1日ほど短かったです。
一方で、入院日数に関してはほぼ同じでした。
下痢の推移
治療を行なった5日間の下痢の推移を見ると以下の通りとなります:
プロバイオティクス | あり (ミルク) |
あり (粉末) |
なし |
1日目 | 96% | 96% | 96% |
2日目 | 50% | 52% | 79% |
3日目 | 12.5% | 22% | 58% |
4日目 | 0% | 4% | 21% |
5日目 | 0% | 0% | 4% |
プロバイオティクスを使用したグループは、2日目くらいから下痢のある割合が少なくなっています。この差は4日目まで続いています。
嘔吐の推移
嘔吐の推移を見ていきましょう。
プロバイオティクス | あり (ミルク) |
あり (粉末) |
なし |
1日目 | 58% | 43% | 54% |
2日目 | 21% | 22% | 38% |
3日目 | 0% | 9% | 17% |
4日目 | 0% | 0% | 0% |
5日目 | 0% | 0% | 0% |
嘔吐の推移に関してはほぼ同じですね。強いて言うなら3日目にやや嘔吐の割合がプロバイオティクスを使用したグループの方が少ないように見えます。
考察と感想
今回の研究はLactobacillus casei sp strain GGを使用して、小児の胃腸炎に対して有効性があるかを検証しています。
結果としては、下痢の期間が1日ほど短縮し、効果を実感できるのは内服開始後2−4日くらいでした。
一方で、入院日数や嘔吐に関してはあまり影響はなさそうでした。
嘔吐はそれほど頻度が高くなかったので、統計学的には検定力がやや足りていなかったのかもしれませんね。
入院日数はいろんな要因で決まりますので、純粋な薬の効果というより、社会的な因子もあるのでしょう。
また、ロタウイルス感染は82%と非常に多いのが印象的でした。
ロタウイルスワクチンは1990年代後半から導入され、紆余曲折があり現在のロタリックス・ロタテックが使用されるようになったのは2000年代後半からがメインです。
現在はロタウイルスワクチンが普及しているので、この論文の結果をそのまま当てはめて良いかは、私は少し慎重な姿勢でいます。
また、今回の研究は入院患者がメインであった点も注意しておいた方が良いと思います。
まとめ
プロバイオティクス(Lactobacillus casei sp strain GG)は、小児のロタウイルス胃腸炎に対して、下痢の期間が1日ほど短縮しました。プロバイオティクスの効果を実感できるのは内服開始後2−4日くらいでした。
一方で、入院日数や嘔吐に関してはあまり効果はなさそうでした。