科学的根拠

プロバイオティクスは、入院が必要な小児の下痢に有効か? インド編

今回はこちらの研究結果をピックアップしています。
インドで入院した小児を対象に、プロバイオティクスの有効性を検討した研究結果です。

途上国にとって急性胃腸炎は小児の生命を脅かす疾患です。例えば、世界的に見ると、胃腸炎で死亡する小児の数は、320万人ほどと推定されています。
そのうち、最も死亡しやすい年齢は2歳以下です。

胃腸炎には経口補水液が使用されることが多いですが、経口補水液では水分・塩分・糖分は補給できたとしても、下痢の期間は短くなったりはしません。
このため、下痢の期間を短縮できる可能性のあるプロバイオティクスに注目が集まっています。

過去に行われた研究で使用されてきたプロバイオティクスですが、

  •  Strep. thermophilus
  •  L. bulgaricus
  •  Saccharomyces boulardii
  •  L. acidophilus
  •  L. casei
  •  L.plantarum
  •  L. rhamnosus GG (LGG)

などがあります。
2002年に発表されたメタ解析でが、先進国のウイルス性胃腸炎にはプロバイオティクスが有効かもしれない、という結果でした。
一方で、途上国においては有益性を証明することができていません。

プロバイオティクスはインドでもよく使用される薬、その有効性を検証するために今回の研究が行われたようです。

研究の方法

2003年、インドの小児を対象にランダム化比較試験が行われました。対象となった患者は、

  •  3回以上の水様性下痢がある
  •  血便なし
  •  便中の白血球が10/HPF以下
  •  細菌感染ではない
  •  重篤な疾患がない

を対象としています。治療は、ORS (100ml)に

  •  プロバイオティクス:LCG (菌数:6000万)
  •  追加なし

のいずれかをランダムに割付け、見た目からはわからないように同じパックを使用しました。

アウトカムについて

研究のアウトカムは、

  •  下痢の頻度
  •  下痢の期間
  •  嘔吐の期間
  •  入院日数

などを指標としていました。

研究結果と考察

最終的に646人が最終的に解析対象となり、

  •  プロバイオティクス:323人
  •  コントロール:323人

となっています。患者背景はどちらのグループも似通っています:

  •  年齢は1.2歳ほど
  •  男児がやや多い
  •  大半が中等度〜重度の脱水
  •  75%ほどが点滴が必要:3−4日ほど
  •  ヘモグロビンは 9 mg/dLとやや貧血気味
  •  ロタウイルスが75%ほど

となっていました。

下痢の回数について

下痢の頻度を比較すると、以下のようになりました

プロバイオティクス あり なし
1日目 22.4回 24.1回
2日目 24.3回 24.2回
3日目 18.4回 17.3回
4日目 10.2回 9.6回
5日目 6.4回 6.8回
6日目 5.0回 4.8回
7日目 2.0回 2.1回
8日目 1.8回 1.6回
9日目 0.9回 0.8回

この表の通り、下痢の回数はプロバイオティクスを使用してもしなくても、あまり変わりなさそうですね。

こちらをグラフにしてみました。ほとんど下痢の頻度が変わっていません。

Dr.KID
Dr.KID
1日20回以上の下痢は、かなり多いですね。

そのほか

そのほか、下痢の期間、嘔吐の期間、入院日数を記録していますが、

プロバイオティクス あり なし
下痢の期間 6.8日 6.6日
嘔吐の期間 3.2日 3.3日
入院日数 9.3日 9.2日

となります。

パッとみても両者はほぼ同等ですし、いずれも統計学的な有意差はありません。

考察と感想

今回の研究はインドの小児を対象に、LCGというプロバイオティクスの有効性を検証しています。小児の下痢にLCGを使用しても、有効性はなさそうという結果でした。

研究手法については特には異論はありませんが、気になったのはやはり小児の栄養状態でしょうか。
下痢が1日20回以上は、他の先進国の結果と比較しても、かなり多い印象です(10回ほどが多かった印象ですね)。

あまりインドの小児の事情に詳しいわけではないのですが、一般的に考えられそうなこととして、栄養状態が挙げられます。
つまり、栄養状態が悪いと、腸の粘膜の状態もベースラインで悪く、胃腸炎に罹患するとさらに悪化してなかなか下痢が治らない状態になります。また、亜鉛など微量元素が不足していて、胃腸炎をきっかけに悪化して、下痢がひどくなっているのかもしれません。

先進国と途上国の研究結果を比較するときは、仮にランダム化をしていたとしても、一般化できるとは限りません。
なぜなら、ランダム化は交絡などの内的妥当性の問題を対処しているのであり、一般化は外的妥当性の問題でランダム化とは関係なく存在しているからです。

まとめ

今回の研究は、インドの小児を対象にプロバイオティクス(LCG)の有効性を検討しています。

この研究においては、プロバイオティクスは小児の下痢の期間や頻度を減らすような効果はなさそうでした。

しかし、インドと他の先進国では患者のベースラインや、原因となるウイルスや細菌が異なるため、外的妥当性(一般化)には注意が必要と思います。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。