今回ご紹介する研究は、2005年に発表されたインドで行われた二重盲検ランダム化比較試験です。
2005年以前ですと、2002年に発表されたメタ解析が有名ですが、プロバイオティクスは小児の下痢の期間を短縮させる可能性が示唆されています。
このメタ解析の問題点として、行われた18の研究は主に先進国であり、途上国への一般化が可能かどうか、はっきりしない点です。
また、利用できるプロバイオティクスが限られていたり、異なるため、途上国でも個別で研究する必要があります。
インドでのプロバイオティクスの製法がやや特殊なのもあり、減菌処理をしているようです(詳細は私はわかりません)。このような処理をしたプロバイオティクスの有効性を検証する必要があるため、今回の研究が行われたようです。
(*著者らは”Tyndalized Lactobacillus acidophilus “と呼んでいます)
研究の方法
2001年〜2002年にかけて、インドで6ヶ月〜12歳を対象に二重盲検化ランダム化比較試験が行われています。対象になったのは、主に
- 下痢で入院が必要な患者
- 重篤な疾患あし
- プロバイオティクスの使用歴なし
- 慢性疾患なし
が対象です。治療は経口補水液に加えて、ランダムに、
- プロバイオティクス:Tyndalized Lactobacillus acidophilus
- プラセボ
のいずれか割り当てられ、3日間使用しています。
アウトカムについて
アウトカムは、
- 下痢の期間
- 経口補水量の平均
- 入院日数
などを指標にしています。
研究結果と考察
最終的に98名が解析の対象となり、
- プロバイオティクス:50名
- プラセボ:48名
が対象となります。大半が3歳以下で、平均月齢は20ヶ月前後、男児が6割前後を占めていました。
このうち、22人にロタウイルスの検査をして、14名が陽性でした。
下痢の期間について
Kaplan Meier曲線で下痢の期間を比較すると、以下のようになります(図は論文より拝借)
50-100時間にかけては、プラセボグループの方がやや成績が良さそうですが、Log-rank検定では統計学的な有意差はありませんでした。
下痢の期間を比較すると、
- プロバイオティクス:54.45時間
- プラセボ:55.08時間
とほぼ同等です。
そのほかのアウトカム
そのほかのアウトカムについては以下の通りとなります。
プロバイオティクス | プラセボ | 差 | |
下痢回数 < 24h | 15.8 | 14.8 | 1.1 |
下痢回数 > 24h | 6.6 | 5.0 | 1.6 |
入院期間 | 27.8h | 32.9h | -4.1h |
補液量(総量)(/kg) | 240.7 | 274 | 33 |
どちらのグループもほぼ同じようで、今回使用されたプロバイオティクスは、
- 下痢の回数は変わらず
- 入院日数もほぼおなし
- 補液量はやや少なくなるかもしれないが、推定は不正確
となります。
考察と感想
インドはプロバイオティクスの製法がやや異なることを初めて知りました(この領域は私はあまり詳しくありません、悪しからず)。Lactobacillus acidophilusはプロバイオティクスの論文で何度か目にしたことがありましたが、”Tyndalized Lactobacillus acidophilus”は初めてです。
解釈はやや難しいと思いました。Tyndalizedという精製の過程の問題なのか、胃腸炎の病原体の違いによるか、小児の栄養状態やそれに伴う腸管の状態によるのか、あるいはこれらの複合的な要素なのか、様々な仮説が頭に浮かびます。
一方で、先進国で有益であったデータをそのまま途上国で当てはめてしまう危険性をこの研究は示していると思います。その逆もまた然りです。
一般化と言われることがありますが、実は疫学の世界ではtransportabilityと呼んでいます。Generalizabilityとは、サンプルして得られた結果が、そのサンプルが所属する母集団に当てはまるかを考えまうs。
一方で、transportabilityとは、とある集団で認めた有効性が、別の異なる母集団でも同じような結果が出るか否かの議論で使います。
最近は疫学界隈でもこの用語の整理が始まっていますし、transportabilityやgeneralizabilityを数式として理解を始める動きも徐々に進んでいます。
まとめ
インドの小児を対象にTyndalized Lactobacillus acidophilusの有効性を検証しました。
下痢にこのプロバイオティクスを使用ましたが、有効性を証明することができませんでした。
この原因については、さらなる調査が必要と思います。