今回はこちらの文献をピックアップしました。
Dutta P, et al. Randomised controlled clinical trial of Lactobacillus sporogenes (Bacillus coagulans), used as probiotic in clinical practice, on acute watery diarrhoea in children. Trop Med Int Health. 2011;16:555-61
プロバイオティクスにも様々な種類がありますが、「Lactobacillus sporogenes (Bacillus coagulans)」という菌株の有効性を、インドで検証しています。
過去にもロタウイルス胃腸炎を対象に、
- Lactobacillus
- Bifidobacterium
が中心で、時にEnterococcus, Streptococcus, Escherichia coli, Saccharomycesといった菌株も使用されたことがあるようです。
インドでもLactobacillusやStreptococcusを中心にランダム化比較試験が行われてきましたが、有効性に一貫性はなく、研究によって結果はばらばらであったようです。
そこで、今回の研究が行われました。
研究の方法
今回の研究は、2003-2005年にインドで行われた二重盲検ランダム化比較試験で、
- 6〜24ヶ月
- 下痢+脱水あり
- 症状は3日以内
- 入院が必要
- 完全母乳栄養でない
- 重度の脱水はない
- 慢性疾患はない
- 抗菌薬の先行投与がされていない
となった患者を対象に行われています。治療は、通常の経口補水療法に加えて、
- プロバイオティクス(Lactobacillus sporogenes (Bacillus coagulans))
- プラセボ
をランダムに割付ています。
アウトカム
研究のアウトカムは、
- 下痢の軽快率
- 下痢の期間
- 下痢の頻度
- 下痢の量
などを見ています。
研究結果と考察
148人の患者が研究に参加し、
- 78人が L. sporogenes
- 70人がプラセボ
の治療を受けました。
患者背景を比較していますが、グループ間での違いはあまりなさそうです。
ばらつきが大きいですが、コントロール群の方がやや体重が少ないですね。
さらにこちらでは、病原体を検出しています。
過去の研究ではロタウイルスが6割程度占めていたので、やや少なめでしょうか。
インドの事情は詳しくないですが、季節変動の影響などもあるのかもしれないですね。
アウトカムについて
若干ですが、プロバイオティクスを使用したグループの方が治癒率が高く、下痢の症状もやや軽快しているようにも見えますが、ばらつきが大きく不正確な推定になっています。
統計学的な有意差も、便の頻度で有意水準付近にあるくらいで、あとは有意差を認めていません。
ロタウイルス感染者のみのアウトカム
全体の3割程度ですが、ロタウイルス感染者のアウトカムに注目してみましょう。
どちらのアウトカムも似通っており、臨床的に重要そうな違いはなさそうです。
ただし、この解析はサブグループ解析ですので、そもそもサンプル数が足りていない点を留意する必要があります。
考察と感想
今回の研究はインドの6〜24ヶ月の小児を対象に行われたRCTですが、プロバイオティクスのはっきりとした有効性はなさそうでした。
全く効かないかというと、そういうわけでもなく、患者全体で見ると下痢症状が改善傾向にあるようにも見えますが、このくらいの軽快にどれだけ臨床的な意義があるのかは、やや懐疑的になってしまいます。
著者らもこの点についてはdiscussionで記載しており、プロバイオティクスの有効性は、
- 地域
- 患者の重症度
- 病原体の種類
- 基礎疾患
など、様々な要素の影響を受けているでしょう。
例えば、食品を通じてプロバイオティクスを摂取している場合、薬で足してもあまり意味がないですし、医療にかけるコストや、薬を投与する手間などを考えても、有効性の検証は大事でしょう。
このため、RCTによって有効性が確認された時に、どこまで一般化するべきなのかは、慎重に考えないといけないでしょう。
他国で有効性が検証されて、飛びついて治療をしてみたけれど、実は自国では有効性はなかった、という研究は山ほどあります。
この時、有効性がある vsない、という二元論に陥るのではなく、
- どのような患者層であれば有効になるのか
- どのような条件であれば有効になるのか
といった因子を探る必要があります。この因子のことを疫学者は「effect modifier(効果修飾因子)」などと呼んでいます。
まとめ
今回の研究は6ヶ月〜24ヶ月を対象に、プロバイオティクスの有効性を、インドの小児入院患者で検証しましたが、臨床的に明らかな改善はなさそうな印象でした。
プロバイオティクスの有効性は地域や患者背景、病原体など、様々な因子の影響を受けるため、一筋縄にはいかなそうな印象です。