今回はこちらの文献をピックアップしました。
下痢をした時の治療法ですが、基本は失われた水分・塩分・糖分の補給がメインになります。
このため、経口補水液が推奨されています。
しかし、経口補水液は脱水を改善させることはできますが、下痢の期間を短縮させる効果はありません。
プロバイオティクスは過去の研究からも下痢の期間を短縮させる効果が示唆されており、外来でも良く使用されています。一方で、プロバイオティクスにも様々な種類があり、どの菌株が優れているのかよく分かっていません。
このため、今回の研究では異なる菌株を用いて、有効性を比較しています。
研究の方法
今回の研究は、1999-2000年にイタリアで行われたランダム化比較試験です。対象となった小児は、
- 家庭医の外来に受診した小児
- 生後3ヶ月〜36ヶ月
- 発症後48時間以内の下痢
- 慢性疾患なし
などを基準に選ばれました。治療は、通常の傾向補水療法に加えて、
- 経口補水液のみ
- L. Casei (Rhamnosus GG)
- S. Boulardii
- B. clausi
- L. bulgaricus, L.acidophilus, S. thermophilus, B. bifidum
- E. faecium
となっています。詳細は以下の通りです(原著より拝借)
アウトカムについて
研究のアウトカムは、
- 下痢の期間
- 下痢の重症度
- 発熱、嘔吐、脱水
- 栄養状態
などを指標にしています。
研究結果と考察
最終的に571人が受診しました。
月齢の中央値は15-20ヶ月前後ですね。その他の特徴は以下の通りです。
下痢が生じて10時間後くらいから治療を開始しています。
下痢の期間について
下痢の期間は以下の通りです。
2のL.caseiグループと、5の複数のプロバイオティクスを使用したグループの方が、1日半ほど下痢の期間が短くなっています。
一方で、L.caseiや、B.clausii、E. faecium SF68を使用したグループは、プロバイオティクスを使用しなかったグループと比較しても、下痢の期間はほぼ同じでした。
下痢の回数について
下痢の回数の推移を見てみましょう。
下痢の回数も2ー5日にかけて、2のL.caseiグループと、5の複数のプロバイオティクスを使用したグループの方が少ないですね。
コントロール(1)と有効性があった(2)と(5)のグループを比較してみましょう。
一方で、(3) S. Boulardii、(4) B. clausi, (6)E. faeciumのグループははっきりとした有効性は認めませんでした。
そのほかのアウトカムについて
その他のアウトカムですが、
- 入院率
- 発熱
- 嘔吐
に関しては特にグループ間での違いはなさそうでした。
考察と感想
非常に興味深い研究ですね。プロバイオティクスも様々な種類がありますが、やはり菌株によって有効性がやや異なるようです。今回の研究では、
- L. Casei (Rhamnosus GG)
- L. bulgaricus, L.acidophilus, S. thermophilus, B. bifidum
の有効性が出ていました。前者はビオラクチスに含まれていますし、Streptococcus thermophilus と Lactobacillus bulgaricus の 2 菌種はヨーグルトに含まれています。
成人の薬になってしまいますが、L.acidophilusやB. bifidumは、ビオリスCに含まれています。
この研究結果を見ると、プロバイオティクスと一括りにするのは、ややナンセンスに感じてしまいます。
菌株や量を把握して、初めて意味のある研究になるのでしょう。
考えてみれば当たり前のことですが、疫学における因果推論の教科書でも「well-defined intervention」として知られています。どんな成分の薬を、どのくらいの量を投与されたのか、研究をする前にきちんと定義する必要があります。
エビデンスの解釈でも同様に、「well-defined intervention」を意識する必要があります。
まとめ
今回の研究はイタリアの小児において、異なるプロバイオティクスが、胃腸炎に与える影響を検討しています。
今回の研究では、
- L. Casei (Rhamnosus GG)
- L. bulgaricus, L.acidophilus, S. thermophilus, B. bifidum
の有効性が出ていました。一方で、
- S. Boulardi
- B. clausi
- E. faecium
の3種類は、はっきりとした有効性はありませんでした。
プロバイオティクスと一括りにするより、どの菌株が使用されたのかを意識する必要がありそうです。