科学的根拠

小児の下痢に迅速検査と乳酸菌製剤は臨床的に役に立つ? ボツワナ編

今回はこちらの論文をピックアップしました。

参考文献

Pernica JM, et al. Rapid enteric testing to permit targeted antimicrobial therapy, with and without Lactobacillus reuteri probiotics, for paediatric acute diarrhoeal disease in Botswana: A pilot, randomized, factorial, controlled trial. PLoS One. 2017 Oct 9;12(10):e0185177

胃腸炎の治療の基本は適切な水分摂取と塩分・糖分摂取が基本です。
よく医療現場でおすすめするのはORS(経口補水液)ですが、これらは効率的に水分・塩分・糖分が摂取できるからです。

経口補水の補助的な治療としてプロバイオティクスを多くの医療者が使用しています。
これにも理由があり、過去、様々な国で小規模な研究がされ、下痢の期間が1日ほど短縮する可能性が示唆されています。
一方で、ここ最近は有効性を証明できなかった大規模試験も出てきており、まだ決着がついたとは言い難い状況です。

一方で、今回の研究が行われたボツワナなどアフリカ地域では類似の研究があまり行われていません。
地域によって、貧困者の割合、栄養状態、下痢の原因となる病原体は異なるため、有効性を検証する必要があります。
このため、今回の研究が行われました。

研究の方法

今回の研究はボツワナで行われた他施設ランダム化比較試験(RCT)です。

  •  2014年
  •  生後2ヶ月〜60ヶ月
  •  24時間以内に3回以上の水様便がある
  •  慢性疾患なし
  •  鮮血便はない
  •  敗血症はない

などを対象に研究が行われました。

治療の戦略は4通りで、

  1.  迅速検査あり→抗菌薬 + 乳酸菌
  2.  迅速検査あり→抗菌薬 + プラセボ
  3.  迅速検査なし→乳酸菌
  4.  迅速検査なし→プラセボ

となります。全ての患者に標準的な治療は施されています。
また、乳酸菌はLactobacillus reuteri DSM 17938 を5億CFU投与しています。

核酸増幅法を使用して便から菌を検出し、抗菌薬は、

  • Campylobacter, ETEC, 赤痢:アジスロマイシン
  • Cryptosporidium: nitazoxanide

を推奨し、サルモネラやGiardiaが検出された場合は医師の判断に任せています。

アウトカムについて

研究のアウトカムは、

  •  60日後の身長(z-score: hight for age)
  •  60日後の体重(z-score: weight for age)
  •  入院日数
  •  下痢の回数

などを計測しています。

研究の結果

最終的に60人が研究に参加し、

  1.  15人:迅速検査あり→抗菌薬 + 乳酸菌
  2.  15人:迅速検査あり→抗菌薬 + プラセボ
  3.  12人:迅速検査なし→乳酸菌
  4.  19人:迅速検査なし→プラセボ

が最終的に解析対象となっています。迅速検査で引っかかった病原体の内訳は以下の通りです。(原著より拝借)

Dr.KID
Dr.KID
カンピロバクター、赤痢、大腸菌など細菌性の割合が非常に高いです(先進国は10%ほどです)。

アウトカムについて

アウトカムのTableは以下の通りでした:(原著より拝借)

太字の結果が統計学的有意差のあった結果です。

  •  60日後の身長変化:height for age in z-score
  •  60日後の体重変化:weight for age in z-score
  •  下痢の再発
  •  EE score: Environment enteropathy score

いずれの結果も、迅速検査+乳酸菌を使用した群が最も良さそうな結果ですが、60日後の身長変化と下痢の再発率のみ統計学的な有意差がありました。

考察と感想

細菌培養の結果を知るには数日以上かかりますし、途上国ですと培地を管理したりするのもコスト的な負担がかかるかもしれません。
その点、迅速検査で行えるなら、代替手段としては悪くはないのでしょうか。

以前(といっても5−6年前ですが)、とある学会の話ですが、すでに海外の先進国ではPCRなどを使用して、例えば3ヶ月未満の発熱の病原体を早期発見し、抗菌薬を早めに終了したり、必要以上に入院期間が延びないように試験運用しているという話を聞きました(その後どうなったかは知りません…)。

仮に迅速検査が使用できるようになったとして、細菌性腸炎のすべての症例で抗菌薬が必要かというと、そうではないですが、起因菌がわかることで不確実性が軽減するため、臨床医には手助けになるのではと思いました。

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今後、大規模試験を目指しているようなので、期待して結果を待とうと思います。

まとめ

小規模なパイロットスタディーですが、ボツワナの5歳未満の小児の下痢において、迅速検査と乳酸菌製剤の組み合わせは、60日後の成長や下痢の再発に予防効果がありそうでした。

今後、大規模なRCTが行われるかもしれないので、楽しみに結果を待とうと思います。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。