今回も最近発表されたランダム化比較試験(RCT)の結果を解説します。
乳酸菌製剤は小児の急性胃腸炎でよく処方されており、アメリカ国内の市場だけでもかなりの規模です。
また、過去の研究で有効性が示唆されているのもあり、ガイドラインに推奨されているケースもあるようです。
しかし、過去の研究には、研究手法に問題点があったり、サンプル数が少なかったり、アウトカムの指標がやや悪かったりと、問題点がいくつか指摘されていました。
そこで、カナダの小児救急外来を中心として、多施設で乳酸菌製剤の有効性を検証しています。
研究の方法
今回の研究はカナダの小児救急外来6施設で行われました。対象となった患者は、
- 3ヶ月〜48ヶ月
- カナダの小児救急外来を受診した患者
- 水溶性の下痢が24時間以内に3回以上
- 下痢 or 嘔吐が72時間以内
- 急性消化管感染症と診断された
- 慢性疾患なし
- 14日以内にプロバイオティクスを使用していない
などとなっています。治療は、
- 乳酸菌製剤:Lactobacillus rhamnosus
- プラセボ(偽薬)
のいずれかを割り当てて、5日間の治療が行われました。
アウトカムについて
アウトカムは以下に示すVesikari Scaleを使用しています:
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こちらのスコアが9点以上を中等症以上と判断しています。
その他のアウトカムとして、
- 下痢の期間
- 嘔吐の期間
- 再診
- 副作用
- 点滴
- 入院
- 保護者が仕事を休んだ日数
などが計測されています。
研究結果と考察
最終的に、414人が乳酸菌製剤を、413人がプラセボで治療されています。
月齢は15-16ヶ月、男児が55-57%ほどでした。
下痢の原因として行った検査は以下の通りでした。(論文より拝借)
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それぞれのアウトカムについて
アウトカムを比較すると、以下のTableのようになりました。
乳酸菌 (414) |
プラセボ (413) |
|
14日以内の下痢 (中等症以上) |
108 (26.1%) |
102 (24.7%) |
下痢の期間 (中央値) |
52.5hrs | 55.5hrs |
嘔吐時間 | 17.7hrs | 18.7hrs |
再診率 | 125 (30.2%) |
110 (26.6%) |
副作用の報告 | 34.8% | 38.7% |
親の病欠日数 (中央値) |
1日 | 1日 |
入院率 | 33 (8.0%) |
22 (5.3%) |
日別に見た下痢・嘔吐の頻度
こちらが受診後、下痢の回数を見たグラフ(原著より拝借)になります。
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最初の数日は乳酸菌を使用した方が、やや下痢の回数が少ないようにも見えますが、統計学的な有意差はありませんでした。
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さらにこちらは嘔吐の頻度を見ていますが、乳酸菌を使用したグループの方が嘔吐の頻度が増えています。
アメリカでの研究結果と比較
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前回、記事にしたアメリカでの研究も同じようにアウトカムを繰り返し計測していました。例えば、こちらは下痢の回数を追っています。統計学的な有意差は無いですが、若干、乳酸菌製剤を使用したグループ(赤)の方がアウトカムが良いようにも見えます(特に治療開始数日)
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また、嘔吐の頻度はこちらになります。治療初日に関しては、乳酸菌製剤の方が嘔吐がやや高く、その後はやや少ないか、プラセボと同じくらいで落ち着いています。カナダの研究の方が、やや極端に嘔吐の数が増えている印象を受けます。
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あくまで私の推測ですが、病原体による修飾効果(effect measure modification)もあるのではと思いました。
例えば、アメリカよりカナダの研究の方がロタウイルスやノロウイルスの頻度が高いです。
これらの病原体は嘔吐が悪化しやすいため、薬の内服後の嘔吐が出やすかったのかもしれませんね。
まとめ
今回の研究では、乳酸菌製剤の有効性を証明することはできず、むしろ嘔吐などの副作用のリスクが高まる可能性が示唆されています。
ほとんどの項目はアメリカの類似の研究結果と一致していますが、一致していない箇所については、何が原因なのかはっきりしない面もあります。
ひょっとしたら、乳酸菌製剤を使わない方が良い病原体とかあるのかもしれないですね。