今回も乳酸菌製剤の有効性を検討した科学的根拠をご紹介しようと思います。
急性胃腸炎ですが、定義は曖昧ですが
- 24時間以内に3回以上の排便があり
- 軟便・水様便が続く
- 下痢の期間は多くは7日以内
- 14日以上持続することはまれ
とされています。
例えば3歳未満の小児では、ヨーロッパにおいては年に0.5〜1.9回ほど胃腸炎に罹患するとされています。
これまでに、
- Lactobacillus reuteri (L. reuteri) ATCC 55730
という乳酸菌を使用したランダム化比較試験が行われてきましたが、この乳酸菌にはテトラサイクリンやリンコマイシンの耐性が移行する可能性が指摘されていたようです。
そこで、Lactobacillus reuteri (L. reuteri) ATCC 55730の耐性プラスミドを除去したL. reuteri DSM 17938が開発されました。
新しい菌株であるため、過去の研究と同様に有効性が確認できるか、今回の臨床研究が行われたようです。
研究の方法
2009年、イタリア南部の3つの病院で行われた二重盲検ランダム化比較試験で、
- 6-36ヶ月
- 胃腸炎での入院患者
- 下痢の期間は7日未満
- 重度の脱水はない
- 慢性疾患なし
- 血便なし
- 抗生剤の使用なし
- 点滴による補液は不要
の小児が対象です。
治療は、経口補水など標準的な治療に追加して、
- Lactobacillus reuteri DSM 17938 (4 x 10^8 CFU)
- プラセボ
をランダムに割り付けて、7日間治療しています。
アウトカム
アウトカムは、
- 3日後の下痢の有無
- 下痢の期間
としています。24時間以上の下痢がないのを確認して、軽快と判断しています。
研究結果と考察
最終的に69人がランダムに割り当てられ、
- 35人は L. reuteri (乳酸菌)
- 34人はプラセボ
となっています。
ロタウイルスが62%、アデノウイルスが14%、不明が24%でした。
アウトカム
それぞれのアウトカムを比較すると以下のようになりました。
下痢 | Lr | Pb | P値 |
持続日数 (SD) |
2.1 (1.7) |
3.3 (2.1) |
< 0.03 |
2日以内に軽快 | 26% | 18% | < 0.01 |
3日以内に軽快 | 45% | 55% | < 0.03 |
2日ー3日目あたりに効果を実感できたのでしょうか。
表だと見づらいので、Kaplan-Meier曲線にしてみましょう。(私のソフトでw)
こちらが生存曲線になります。赤が乳酸菌で、青がプラセボになります。
全体的に乳酸菌グループのほうが、下痢は早く治っている印象ですね。
生存解析として、log-rank testをしてみましょう。
Log-rank testでのP値は 0.0243と有意になっています。
考察と感想
今回の研究は6ヶ月〜3歳を対象に、入院が必要だった小児の胃腸炎を対象に行われましたが、乳酸菌製剤は下痢の期間をおよそ1日ほど短縮しています。
60%ほどの患者はロタウイルスですが、2009年なので、まだイタリアではワクチンの導入が本格的ではなかったのでしょうか。
イタリアのワクチン率など詳しくないですが、ロタテックの臨床試験が行われたのは2006年頃なので、微妙な時期なのでしょうか。(詳しい方がいたら教えて欲しいです。)
ロタウイルスワクチンが普及した国ですと、ロタウイルス胃腸炎での入院患者数は減るので、今回の結果をそのまま一般化するのは難しいのかもしれませんね。
今回の研究でも、ロタ vs. 非ロタで分けてサブグループ解析をしてもよかったのでしょうが、69例とサンプル数が小さいのな、なかなかそこまではできなかったのかもしれないですね。
まとめ
今回の研究では、2009年、イタリア南部の3施設において、胃腸炎で入院となった6ヶ月〜3歳に乳酸菌のプロバイオティクス(Lactobacillus reuteri DSM 17938)は、下痢を1日ほど早く回復させる効果がありそうでした。
病原体として検出されたのはロタウイルスが多く、ロタウイルスワクチンが普及した現代にこの結果を一般化したり、外来患者でも同様の傾向であるかは、やや慎重にならざるをえません。