頻度は少ないですが、小児でもピロリ菌に感染することがあります。
以前、こちらの記事でも詳しく書いていますが、小児がピロリ菌に感染すると、
- 胃炎・胃潰瘍
- 血小板減少症
- 貧血
- 偏頭痛
などに罹患しやすくなります。
Maastricht 2–2000 Consensus Reportによると、推奨されている治療法は、2種類の抗菌薬+制酸薬でして、具体的には
- アモキシシリン
- クラリスロマイシン or メトロニダゾール
- プロトンポンプ阻害薬
の組み合わせになります。しかし、この治療方法も完璧ではなく、10-35%ほどの確率で除菌に失敗してしまうことがあります。
近年、成人で行われたメタ解析では、プロバイオティクスが除菌率を5ー10%ほど改善させた報告もあるようです。
しかし、小児では類似の研究は行われていなく、さらにどのプロバイオティクスを使用するべきかもままならないため、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
今回の研究は2008〜2011年のイタリアで行われたランダム化比較試験です。
- 臨床・検査・内視鏡でピロリ菌感染が陽性と判断
- 4週間以内に抗菌薬・制酸薬・プロバイオティクスを使用していない
- 使用する薬に対してアレルギーがない
などが対象となっています。
治療は全員(グループAとB)に
- オメプラゾール
- アモキシシリン
- クラリスロマイシン
が使用され、片方のグループBのみにプロバイオティクスが使用されています。プロバイオティクスは、
- L. plantarum: 5 x 10^9
- L. reuterii: 2 x 10^9
- Casei subsp. rhamnosus: 2 x 10^9
- B. infantis + longum: 1 x 10^9
- L. salivarius: 1 x 10^9
- L. acidophilus: 5 x 10^9
- S. termophilus: 5 x 10^9
- L. sporogenes: 1 x 10^9
を使用しています。(*L = Lactobacillus, B = Bifidobacterium, S = streprococcus)
アウトカムについて
- 除菌の成功率
- 腹痛など副作用
を2グループで比較しています。
研究結果と考察
最終的に68人の患者が参加しました。
- 男女比 = 32:36
- 平均年齢 = 8.3 歳 (+/- 3.4)
となっています。プロバイオティクスを追加されなかったAグループに34人、追加されたBグループに34人がランダムに割付られています。
除菌の成功率について
除菌の成功率は以下の通りでした。
グループ プロバイオティクス |
B あり |
A なし |
成功 | 30 (88.2%) |
26 (76.4%) |
合計 | 34 | 34 |
Risk Rationにしてみましょう。
RR = 1.15と、プロバイオティクスを使用したグループの方が、成功率はやや高いですが、95%CIは広くやや不正確な推定になっています。
そのほかの副作用について
その他の副作用については、以下のテーブルになります。
副作用 | A (Proなし) |
B (Proあり) |
胃痛 | 6 | 2 |
吐き気 | 3 | 1 |
嘔吐 | 2 | 0 |
下痢 | 8 | 0 |
便秘 | 2 | 2 |
(*Pro = プロバイオティクス)
便秘を除いて、プロバイオティクスを使用したグループの方が、副作用は少なそうですね。
P値の算出に関する疑問
まず、著者らはP値を「< 0.05」や「NS = non-significant」というやり方で報告していますが、これは好ましくありません。
P値が0.05を切るか否かは本質的には重要ではなく、きちんと計測された値を報告する必要があります。
また、上の副作用のテーブルをパッとみた直感は、P値の算出が正しくない印象です。
おそらく、0.05以下は誤りなのでは?と思いました。
実際に手元の統計ソフトで計算してみましょう。
例えば胃痛の結果は以下の通りになります。
全然、P値は0.05以下じゃないですよね。
嘔吐に関してもこちらです。
どのような計算がされたのか、気になりますね。
考察と感想
小児のピロリ菌に対してプロバイオティクスを使用した研究は多くはなく、非常に貴重な報告だとは思うのですが、解析結果に疑問点があり、残念に思いました。いくつかポイントを挙げると、
- Funding sourceが記載されていない
- 盲検化の有無が書かれていない
- P値の計算が?
- P値の報告方法が間違っている
といった点です。
「英語論文で発表されたくらいだから大丈夫」と考えてしまう方(医師でもそうです)もいますが、実はそうでないことも多々あります。
今回のように査読がスルーしてしまう危険性は大いにあり、特にマイナーな雑誌になればなるほど、その傾向があります。とはいえ、メジャーな雑誌でもないとは限らないです。
悲しい事実かもしれませんが、どんな雑誌でも疑いの目を持って読む必要があるのかもしれません。
今回の研究は貴重な報告ではあるので、なおさら残念に感じてしまいました。
まとめ
今回のイタリアで行われた、プロバイオティクスがピロリ菌の除菌に有効であるか、副作用の頻度を減らすか検討しています。
プロバイオティクスはピロリ菌除菌の成功率を上昇させるかもしれませんが、サンプル数が不十分で、推定が不正確なため、今回の研究で何かを結論づけるのは難しいでしょう。
また、副作用の頻度を減らすかもしれませんが、著者らのP値の算出に誤りが多数あり、データの信頼性を疑わざるを得ない状況です。