先進国において小児の胃腸炎で致死的になるケースはまれですが、途上国では致死率が高く、5歳未満の小児では世界で毎年150万人が命を落としていると推定されています。
近年、ロタウイルスワクチンが導入され、毎年60万人が死亡していますが、この8割は途上国で起きています。
インドでは12〜15万人の小児がロタウイルス胃腸炎で死亡しており、さらに45〜88万人もの小児が入院し、200万人が外来に受診しています。
医療コスト的には、日本円に換算して、40-70億円ほどが医療費に要しているようです。
近年、プロバイオティクスの研究が盛んに行われてきましたが、インドの小児において有効であるか不明であるため、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
今回の研究が、インドのTata Main Hospitalで行われた二重盲検化ランダム化比較試験です。
- 2007-2009年
- 3ヶ月〜5歳の入院患者
- ロタウイルス迅速検査陽性
- 下痢の症状が48時間以内
- 24時間以内に下痢が3回以上
- 慢性疾患なし
- 重症な疾患なし
を対象に研究が行われました。治療は、
- プロバイオティクス:Saccharomyces boulardii (SB)
- プラセボ
のいずれかをランダムに割付られています。
アウトカム
アウトカムは、以下を計測しています:
- 下痢の期間
- 発熱の期間
- 入院期間
- 点滴を要した小児の割合
- 7日以上下痢が続いた小児
- 副作用の割合
研究結果と考察
最終的に30人が研究に参加し、
- 30人はプロバイオティクス
- 30人はプラセボ
を投与されました。患者背景は以下のテーブルになります:(論文より拝借)
アウトカムについて
アウトカムの結果は以下の通りになります(原著より拝借):
結果を要約すると、プロバイオティクスは、
- 下痢の期間は29時間ほど短縮
- 入院時間も17時間ほど短縮
がメインの結果になります。
95%信頼区間が広く、推定がやや不正確ですが、発熱期間、嘔吐期間、点滴を要した割合、7日以上続く下痢の割合なども、プロバイオティクスの方がやや良い結果でした。
考察と感想
今回はインドの小児を対象にしたプロバイオティクス(Saccharomyces boulardii (SB))の有効性を検証していました。
5歳未満の小児が対象で、ロタウイルスのみに絞っています。
私としては、このように原因となる病原体を絞り込んでくれたほうが、解釈はしやすいと思いました。
というのも、胃腸炎といっても様々な病原体が原因になるため、ざっくりと診断した場合、どのウイルスや細菌がメインだったのか予測するのが難しくなります。
また、地域や年齢など様々な要素で感染する病原体は変わりますから、今回のように小規模な研究であれば、病原体を絞り込んでしまったほうが、どのウイルスに、どのプロバイオティクスが、どの程度有効だったのかが推定しやすくなります。
まとめ
今回は、インドの病院で5歳未満の小児を対象に、ロタウイルス胃腸炎にプロバイオティクス(Saccharomyces boulardii (SB))が有効か検証しています。
結果として、下痢の期間を1日強、入院期間も1日弱ほど短縮させる効果がありそうでした。
途上国のデータですので、小児の健康状態が異なり、先進国での一般化はやや難しい点があるのも留意しておこうと思います。