今回、ご紹介する研究は、 Escherichia coli strain Nissle 1917 (EcN)という菌株のプロバイオティクスを使用して、乳幼児の下痢への有効性を検証しています。
これまで調査されてきたプロバイオティクスは、
- Lactobacilli
- Bifidobacteria
- Saccharomyces boulardii
が中心で、医療の市場に出回っている製品もこちらが中心的な役割を担っています。
EcNは欧州を中心に使用されているプロバイオティクスで、小児への安全性と有効性の検証が不十分のため、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
2005年にウクライナやロシアを中心に11施設でランダム化比較研究が行われました。
対象となったのは、
- 4歳未満
- 水様性下痢あり
- 血便はなし
- 発症から3日以内
- 重度な脱水はない
- 慢性疾患はない
患者を対象に研究が行われています。治療はランダムに
- E. coli strain Nissle 1917
- プラセボ
のいずれかをランダムに割付ています。
アウトカム
研究のアウトカムは以下の通りです
- 下痢・排便の頻度が3回以下になるまで要した時間
- 便の状態
- 腹痛
- 体温
- 嘔吐回数
などを、初日、3日、5日、7日、10日の受診時に計測しています。
研究結果と考察
最終的に113人が研究の対象となり、
- プロバイオティクス:55人
- プラセボ:58人
です。月齢は21-23ヶ月が中央値です。治療前の下痢の期間は1.5日ほど、下痢の頻度は1日3回ほどでした。
下痢の期間
便の回数が3回未満になるまでの期間(中央値)ですが、
- プロバイオティクス:2.5日
- プラセボ:4.8日
とプロバイオティクスを使用したグループの方が2.3日ほど短かったです。Kaplan-Meier法を使用すると、以下のような経過になります(論文より拝借)
研究終了日に下痢が消失していた人の割合ですが、
- プロバイオティクス:94.5% (52/55)
- プラセボ:67.2% (39/58)
と、プロバイオティクス群の方が成績はよかったです。RRやRDに直してみましょう。
- Risk Difference = 0.27
- Risk Ratio = 1.41
で、統計学的な有意差もありますね。↓↓
その他のアウトカム
腹痛や便の性状の回復を調査していますが、回復率を比較すると以下の通りでした
EcN | プラセボ | |
便の性状 | 78.4% | 40.5% |
腹痛なし | 93.3% | 72.7% |
疝痛なし | 94.4% | 80.8% |
- いずれもプロバイオティクスを使用したグループの方が成績が良いですね。
考察と感想
著者らが原文中に記載していた内容ですが、プロバイオティクスが胃腸炎に効くとメカニズムとして、
- 病原体と競合し、増殖を抑制する
- 病原体を退治する物質を放出する
- 腸管のバリア機能に役立つ
- 炎症を抑制する/調整する
といった役割が仮説として挙げられているようです。確かにプロバイオティクスがなぜ有効なのかは、非常に興味がありますが、人で行おうとすると、便を頻回に確認したり、場合によっては腸管の状態を内視鏡などで見ないといけなくなるため、実現は難しそうですね。
今回の研究はあまり聞きなれないプロバイオティクスでしたが、ドイツのArdeypharmという製薬会社で作られているようです。EcNは名前に1917が入っており、歴史を感じさせる名前ですね。
まとめ
今回はロシア・ウクライナを中心とした小児の外来で、プロバイオティクスが下痢に有効かを検証しています。
プロバイオティクスは、下痢を2日ほど短縮させる効果がありそうでした。