- 鼻水が緑色 or 黄色になってきました
というご相談は外来でよく受ける相談の1つです。
「鼻水が緑色 or 黄色 = 細菌感染」と考える一般の方々や医療者も一定数いる印象で、抗菌薬が処方されているケースもあるようです。
今回は、この診療に科学的根拠があるかを調べてみたところ、該当する論文を発見したため、こちらで報告させていただきます。
先にこの研究の結論とポイントから述べましょう。
- 膿性鼻汁に抗菌薬は有効かを検証
- 抗菌薬を内服しても、病原性のある細菌の数は減らない
- 症状もプラセボと変わりなし
Todd JK, et al. Bacteriology and treatment of purulent nasopharyngitis: a double blind, placebo-controlled evaluation. Pediatr Infect Dis. 1984 May-Jun;3(3):226-32.
黄/緑/茶色の鼻水だけで、抗生剤投与の根拠とはなりません。
研究の概要
今回は、鼻水の色の変化によって、患者の抗菌薬の処方希望がどう変化するか検討した二重盲検ランダム化比較研究になります。
1984年にアメリカから報告された調査になります。
対象の患者
対象となったのは、
- 基礎疾患のない2ヶ月以上の小児
- 膿性の鼻汁で受診
になります。
治療
治療は4つのパターンを用意しており、
- 1: 抗菌薬 + pseudoephedrine/triprolidine
- 2: 抗菌薬 + プラセボ
- 3:プラセボ + pseudoephedrine/triprolidine
- 4:プラセボ + プラセボ
のいずれかをランダムに割り当てています。
抗菌薬はセファレキシンが使用されています。triprolidineは抗ヒスタミン薬、pseudoephedorineは充血除去薬で、この2つはいわば風邪薬でしょう。
研究結果
最終的に平均して2歳半の小児が研究に参加しています。131人の鼻汁中の細菌は以下の通りでした:
菌株 | % |
肺炎球菌 | 46% |
インフルエンザ桿菌 | |
b型 | 20% |
非b型 | 12% |
モラキセラ | 13% |
黄色ブドウ球菌 | 15% |
A群溶連菌 | 8% |
これらが疾患に関わっているかは別として、結構な割合で細菌が増殖しているのが分かります。
1 N = 31 |
2 N = 26 |
3 N = 29 |
4 N = 26 |
|
抗菌薬 | あり | あり | なし | なし |
かぜ薬 | あり | なし | あり | なし |
肺炎球菌 | ||||
前 | 51.6% | 25.8% | 48.2% | 42.3% |
後 | 54.8% | 29.0% | 51.7% | 50% |
溶連菌 | ||||
前 | 6.5% | 7.7% | 10.3% | 7.7% |
後 | 0% | 0% | 0% | 0% |
ブドウ球菌 | ||||
前 | 12.9% | 11.5% | 3.4% | 11.5% |
後 | 0% | 3.8% | 10.3% | 7.7% |
インフルエンザ 桿菌(Hib) |
||||
前 | 42.3% | 7.7% | 34.5% | 7.6% |
後 | 50% | 0% | 20.7% | 3.8% |
治療前後に、小児の感染症でメジャーな菌を鼻汁から検出しています。抗菌薬投与の有無と、培養で菌が検出される割合は、ほとんど関連がないようみえます。例えば、肺炎級菌は抗菌薬の投与とは関係なく、治療後のほうが検出される割合が高いです。一方で、溶連菌は抗菌薬の投与の有無とは関連なく、治療後には菌が検出されなくなっています。
1 | 2 | 3 | 4 | |
抗菌薬 | あり | あり | なし | なし |
かぜ薬 | あり | なし | あり | なし |
症状 | ||||
鼻汁 | 75.9% | 76.9% | 63% | 62.5% |
合併症* | 6.9% | 7.7% | 7.1% | 8.3% |
抗菌薬の使用をしても、鼻汁が改善するわけではなさそうです。さらに、急性中耳炎や気管支炎などの合併症のリスクもほとんど変わらない結果でした。
感想と考察
アメリカの研究で、肺炎球菌やHibワクチン導入前の結果ですが、抗菌薬の投与をしても、鼻汁中から検出される細菌には影響がなく、さらに鼻汁の改善や合併症のリスクには影響がなさそうな印象でした。
まとめ
今回は、1984年にアメリカから報告された、小児の膿性鼻汁に抗菌薬が有効かを検討した結果です。
かぜに矛盾しないシナリオで、「鼻水が黄色 or 緑色だから」という理由で抗菌薬を処方をしても、そもそも鼻汁中の細菌の検出率は変わらず、鼻汁の遷延や合併症のリスクにも影響していません。
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