今回は医療の質に関して報告された論文をご紹介しようと思います。
医療は様々な地域、年齢などを対象に提供されています。「どこにいっても、そんなに変わらないのでは?」と感じる方がいるかもしれませんが、実の所、受診された医療機関などによってはその質にはばらつきがあります。
もちろん、良い医療、悪い医療と簡単に白黒つけられないものも多くありますが、その一方で、エビデンスレベルの高いと分かっている医療が行われていなかったり、禁忌となりうる医療が提供されてしまっているケースもあります。
今回は、この医療の質をテーマにした研究の先駆け的な論文をご紹介しようと思います。
- アメリカの成人を対象に行われた研究
- 2000年の時点では、推奨レベルの医療を受けられた患者は5割程度であった
アメリカからの有名な報告です。
アメリカでは質の高い医療が本当に提供されているのか?[2000年]
研究の背景/目的
米国では、医療に関わる標準的なプロセス(質の重要な要素)がどの程度提供されているかについて、体系的な情報はほとんどない。
研究の方法
米国の12の都市圏に住む成人の無作為サンプルに電話をかけ、選択した医療経験について尋ねた。
また、書面による同意を得て、直近2年間の医療記録をコピーしてもらい、この情報を用いて、30の急性および慢性疾患と予防ケアのケアの質に関する439の指標についてのパフォーマンスを評価した。その後、集計スコアを作成した。
研究の結果
研究の対象者のうち、54.9%(95%信頼区間、54.3~55.5)が推奨される医療を受けていた。
推奨される医療を受ける割合は、予防医療(54.9%)、急性期医療(53.5%)、および慢性疾患の医療(56.1%)では、ほとんど差が見られなかった。
さまざまな医療機能の中で、医療に関わるプロセスの遵守率は、スクリーニングでは52.2%、フォローアップケアでは58.5%であった。
医療の質は特定の病状によって大きく異なり、老人性白内障の推奨ケアは78.7%(95%信頼区間、73.3~84.2)、アルコール依存症では10.5%(95%信頼区間、6.8~14.6)が推奨される医療を受けており、ばらつきは大きかった。
結論
基本的な医療において、推奨されているプロセスを遵守を確認したところ、この点は欠陥があり、アメリカ国民の健康に深刻な脅威をもたらしている。
アメリカにおいて、医療の質におけるこれらの欠陥を減らすための戦略が今後必要である。
考察と感想
この結果は、平均して、アメリカ人は推奨された医療プロセスを受けている人は、全体の約半分と推定されました。
「医療の質」という壮大なテーマを、今回の研究のみで推定することは議論が分かれるでしょうが、実際に行われている医療と推奨される医療の間のギャップを知ることは重要なのだと思います。特に、この時期のアメリカには「十分な医療は提供されている」という盲信のような風潮があったのかもしれません。
様々なレベルで、医療のプロセスやそのパフォーマンスに関する情報を入手・利用し、臨床的な意思決定や質の測定・報告のためのインフラが必要なのかもしれないですね。
言うは易し、行うは難しだとは思いますが…
まとめ
今回の研究は、アメリカにおける医療の質を検討した研究です。
2000年時点の結果ですが、およそ半分の受診者が推奨されるレベルの医療を受けておらず、改善が必要という内容でした。
小児版もあるようなので、調べてみようと思います。
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