下痢は小児でよく起こる疾患で、先進国でも途上国でも主要な感染症の1つです。
下痢の問題としては、脱水や電解質のバランスが乱れてしまうことです。
この原因として、胃腸炎により腸管の吸収が妨げられことが挙げられます。
このため、胃腸炎による下痢の治療の基本は、適切な水分と電解質の摂取になります。
Racecadotoril(Acetorphan)というEnkephalinase阻害薬は、腸から過剰に分泌される腸液を抑制する効果があるようですが、ロペラミドなどとは異なり蠕動を抑制する効果はありません。
ロペラミドは腸の動きを止めてしまうためイレウスの懸念がありましたが、Racecadorilはメカニズム上そのリスクが低いのかもしれません。
今回は、このRacecadotoril(Acetorphan)が小児の下痢にどの程度有効であったかを検討しています。
研究の方法
今回の研究は、1994-98年に
- 135人の男児
- 3ヶ月〜35ヶ月
- 胃腸炎による脱水で入院が必要
だった小児を中心にランダム化比較試験が行われました。
治療は、経口補水療法に加え、
- Racecadotoril
- プラセボ
のいずれかをランダムで割付けています。
アウトカムは、
- 下痢の量
- 下痢が軽快するまでの時間
などを計測しています。
研究結果と考察
最終的に135人が研究に参加し、68人がRacecadotorilを、67人がプラセボによる治療を受けました。
患者の特徴は、月齢はおよそ12ヶ月、体重は9kgくらい、過去24時間で9回ほど下痢があり、下痢は2日ほど続いている患者です。参加者の5割以上はロタウイルス感染でした。
下痢の量について
下痢の量を48時間以内、全期間で比較しています。
Racecadotril | あり | なし |
< 48h | 92 (12) |
170 (15) |
全期間 | 157 (27) |
331 (39) |
Racecadotorilを使用したグループの方が、体重あたりの下痢の量は少ない傾向にありました。半分強くらいですね。
下痢の期間について
下痢の期間をグラフにしています。
Racecadotrilのほうが、全期間を通じて下痢が持続する確率が低くなっています。つまり、下痢はRacecadotrilを使用したグループのほうが、はやめに軽快していることが示唆されています。
考察と感想
Racecadotrilを使用したグループのほうが、下痢の量・期間とも改善する印象でした。
他の研究結果と類似していますね。
Racecadotrilは国内の小児では使用できず、使用実感が臨床医としてはわからないです。こちらの論文は2000年くらいに発表されていますが、その後も国内では採用されず、海外の胃腸炎ガイドラインでも強い推奨はない点をみると、何か問題があったのではないかと勘ぐってしまいます(実際のところはよくわからないです)。
気になる点としては、プロバイオティクスとの比較ですね。国内でも小児の胃腸炎にプロバイオティクスを使用するケースが多いので、この結果は気になる方は多いのではないでしょうか。
まとめ
今回の研究は、Racecadotrilとプラセボを小児の胃腸炎の下痢の期間・量で比較し、有効性がありそうな印象でした。
個人的には、プロバイオティクスなどの他剤との比較が気になるところです。