科学的根拠

滲出性中耳炎の治療に抗ヒスタミン薬を併用してもメリットなし

前回、滲出性中耳炎に第一世代の抗ヒスタミン薬と充血除去剤を使用してもメリットがあまりないばかりか、副作用がかえって生じるリスクが明らかに高まることがわかりました。

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滲出性中耳炎の治療には抗菌薬が頻用されている時代もありました。
ここで、さらに仮説が考えられ、抗菌薬に抗ヒスタミン薬などを上乗せすれば、より軽快するのではないか?と立てることもできます。

このため、今回の研究が行われました。

研究の方法

研究デザインは前回と非常に類似しており、

  •  1981-1984年
  •  7ヶ月〜12歳の小児で滲出性中耳炎に罹患
  •  先天性疾患や慢性疾患なし
  •  抗ヒスタミン薬などの治療が過去30日ない

などが対象となっています。

今回も、

  •  年齢:6〜24ヶ月、2〜5歳、5〜12歳
  •  滲出性中耳炎の期間:〜4週、4〜8週、8週〜、不明
  •  抗菌薬の投与が2ヶ月以内にあり

で24のグループにわけています。

治療については、

  1.  抗菌薬(アモキシシリン)+ 抗ヒスタミン
  2.  抗菌薬(アモキシシリン)+プラセボ2
  3.  プラセボ1+プラセボ2

の3つのグループになります。
この場合、抗菌薬の有効性をみたければ、2 vs 3のグループを、抗ヒスタミン薬の有効性をみたければ 1 vs 2 のグループを比較します。
1 vs 3の比較は、Joint effect(2つの治療を同時に行った場合の効果)をみています。

抗菌薬はアモキシシリンで40 mg/kg/day、抗ヒスタミンはクロルフェニラミン(0.09 mg/kg/day)を使用しています。

アウトカムの評価

研究のアウトカムは、

  •  4週間後の滲出液の有無
  •  再発率
  •  副作用のリスク
  •  聴力の変化

などを評価しています。

研究結果と考察

518人の患者が研究に参加し、最終的に488人(94%)が2〜4週後のアウトカムの評価がされました。

コンプライアンスは75%〜91%程度でした。

4週間後の滲出液の有無

4週間後の滲出性中耳炎の状態は以下の通りになります。

少し見にくいテーブルですので、私のほうで作り直して見ます。両側性+片側性をあわせた結果です。

  軽快 リスク比
プラセボ 22/158
(31.6%)
Ref
抗菌薬のみ 46/160
(28.8%)
1.84
(1.16, 2.91)
抗菌薬 +
抗ヒスタミン薬
50/158
(31.6%)
2.27
(1.45, 3.57)

となります。
抗菌薬を投与したグループは1.84倍ほど滲出性中耳炎が回復する可能性が高く、さらに抗ヒスタミン薬を追加すると2.27倍と高まりました。

抗ヒスタミン薬の効果をみると(3番目 vs 2番目)、抗ヒスタミン薬を追加したほうが1.23倍ほど回復する可能性が高くなりました(95%CI, 0.88〜1.74)。

Dr.KID
Dr.KID
P値だけみて有意差あり・なしは実はあまり重要でなく、治療をすることで軽快する可能性がどの程度変化するのか(リスク比)、それがどのくらい確からしいのか(95%信頼区間)を気にする方が有益です。

再発率について

再発率についてはやや曖昧な記載でしたが、以下の点を触れていました;

  •  再発率は 約50%〜61%
  •  3つのグループで統計学的な有意差はない

副作用について

副作用は鎮静、易刺激性ですが、3つのグループで以下の通りでした:

  2週間後 4週間後
プラセボ 6% 〜1.5%
抗菌薬のみ 5% 〜1.5%
抗菌薬+抗ヒスタミン 14% 〜1.5%

聴力の変化

聴力の変化は以下の通りです。

会話を認識できる音のレベル(dB)を検査しているようです。(値は低いほうが成績が良いようです)。
3つのグループで統計学的な有意差はありませんでしたが、抗菌薬のみのグループのほうが改善しているようにも見えます。
著者らは、プラセボグループは滲出性中耳炎が軽快しきっていない患者が多いため、このような傾向にあると付け加えていました。

考察というか感想

古い論文ですので、記載方法が今とは少し違い、読みにくいテーブルが多かったり、データの提示が不十分な箇所があり、一部だけ修正して記載してみました。

滲出性中耳炎と抗菌薬の有効性はないと勝手に思っていたので、少し結果は意外でした。
ですが、あくまで1つの研究結果ですので、他の研究の結果をあわせて総合的に判断したいところです。
(現在は抗ヒスタミン薬のシリースをしているので、また後日、抗菌薬の適正使用という点から議論できたらと思います。しばしお待ちください)

また、今回の研究では、抗ヒスタミン薬を追加するメリットはかなり限定的でした。
また、前回の研究と同じく、副作用のリスクははっきりと高まっています。
メリットよりデメリットのほうが多い印象を受けます。

まとめ

今回の研究では、滲出性中耳炎に抗菌薬を投与すると4週間後に軽快する可能性が約2倍ほどあがりました。
一方で、抗ヒスタミン薬を追加しても得られれるメリットはかなり少なく、どちらかというと鎮静や易刺激性というデメリットが上回る印象です。

Dr.KID
Dr.KID
抗菌薬については、抗ヒスタミン薬のシリーズが終わってから適正使用という点でまた議論したいと思います。

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。