ロタウイルス胃腸炎は乳幼児に多い胃腸炎で、下痢・嘔吐・発熱などの症状が中心です。
症状がひどい場合、脱水になって入院が必要になってしまうケースもあります。
今回は、ロタウイルス胃腸炎とワクチンについて詳しく説明していきます。
まずはロタウイルス胃腸炎のポイント
ロタウイルス胃腸炎のポイントは以下の通りです:
- ロタウイルスに感染すると、嘔吐・下痢といった胃腸炎症状がでます
- 脱水や痙攣(ひきつけ)を起こすことがあり、入院が必要な場合があります
- ロタウイルス胃腸炎は、ワクチンで予防可能です
ロタウイルスってなんですか?
ロタウイルスは乳幼児の胃腸炎の原因となるウイルスです。
ロタウイルスにもいくつか種類があり、A, B, C群があります。
一般にA群が流行しやすいです。
マニアックな話ですが、レオウイルス科に属するRNAウイルスです。
ウイルスは二本差RNA (double stranded RNA)で構成されています。
ウイルスの外層はvp4 (P)とvp7(G)から構成されています。
Pはprotease、Gはglycoproteinの略です。
ロタウイルス胃腸炎の特徴
ロタウイルス胃腸炎は冬〜春に流行することが多いです。
『ロタウイルス胃腸炎』という名前がつく前は;
- 冬季乳幼児嘔吐下痢症
- 白色便性下痢症
- 白痢
などと呼ばれてきました。
ロタウイルス胃腸炎は乳幼児に多いです
ロタウイルス胃腸炎は、生後6ヶ月から2歳の乳幼児に非常に多いです。
『ただの胃腸炎でしょ!?』と思われるかもしれませんが、ロタウイルスは他の胃腸炎ウイルスよりも強烈な症状が出やすいです。
特に乳児は、ワクチンを接種していないと重症化しやすく、脱水症を起こして入院が必要となるケースが多々あります。
ロタウイルス胃腸炎の症状
ロタウイルス胃腸炎の症状は;
- 突然の嘔吐(96%)
- 頻回の下痢(ほぼ100%)
- 発熱(77%)
- 脱水(83%)
が特徴です。下痢は白色便のこともあります。
重症化しなければ、おおよそ1週間くらいで回復することが多いです。
一般的な胃腸炎ウイルスでは、 嘔吐は58%、発熱は 61%、脱水は40%程度です。
このデータからも、ロタウイルスに感染すると、嘔吐や脱水をかなり起こしやすいのが分かるでしょう。
ワクチン接種していないと、重症化しやすいです
嘔吐・下痢が悪化して、水分摂取が不十分な場合、脱水症を起こすことがあります。
特に、ワクチン接種をしていない場合、脱水は 83%で起こし、入院は50人に1人の割合で必要になることがあります。
さらに重症化した場合、けいれん、脳炎・脳症、腎不全などの合併症が生じ、入院が必要となることがあります。
ロタウイルス感染の診断方法について
迅速検査で診断可能です。
便を採取して、15〜20分くらいで診断が可能です。
医療保険では、全ての患者に保険適応となっていますが、実際に検査するかは医師により異なります。
小児科医が下痢の子供全員に検査をしない理由
ロタウイルスは特効薬はないため、検査で陽性と判明しても治療法に一切変更はありません。
インフルエンザや溶連菌のように、検査をして陽性とでたら、治療方針が大きく変わる場合には、検査をする価値が大きいと考えています。
ですが、ロタウイルスの場合、陽性と判明しても、特効薬はなく、治療方針に全く影響しないため、検査はいらないと考える小児科医が多いです。
ロタウイルス胃腸炎の治療法
ロタウイルス胃腸炎には特効薬はありません。
つまり、インフルエンザにおけるタミフルやイナビルのような薬はないのです。
抗生物質は不要です
『抗生物質を出してください』と保護者の方からお願いされることがありますが、ロタウイルスには全く効果はありません。
これは、抗生物質は細菌には効くのですが、ウイルスには全く効かないからです。
そればかりか、抗生物質の副作用が出たり、腸の常在菌を減らしたり、耐性菌を作ったりと、治療に伴う不利益ばかりです。
脱水には要注意
脱水を起こしやすいので、母乳やミルク、経口補水液(OS-1など)で十分な水分補給をしましょう。
嘔吐がひどい場合は、少量を頻回に飲ませるようにするとよいでしょう。
制吐剤について
吐き気止めもありますが、日本で使用できる制吐剤の有効性はかなり疑問視されています。
水分の飲ませ方などは、以下の過去記事を参考にしてください。
ロタウイルス胃腸炎はワクチンで予防可能です
日本で使用できるワクチンは:
- ロタリックス
- ロタテック
の2種類があります。
このいずれかのワクチンを使用すれば、ロタウイルス胃腸炎は予防できます。
飲ませるタイプのワクチンで、生後6週から摂取可能です。
ロタウイルスワクチンを接種しない場合
アメリカでのデータになりますが、ロタウイルスワクチンが開発する前は:
- 年間 270万人がロタウイルス胃腸炎に罹患
- 年間 50万人がロタウイルス胃腸炎で医療機関を受診
- 年間 27万人がロタウイルス胃腸炎で救急外来を受診
- 年間 7万人がロタウイルス胃腸炎に関連して入院
- 年間 20-60人程度がロタウイルス胃腸炎で死亡
となっています。
およそ『50人に1人が入院していた』と予測されています。
こちらはアメリカのデータですので、日本にそのまま適応はできませんが、一般的にアメリカの入院基準は日本よりかなり高いです。
日本では50人に1人以上は入院していたのでは、と予測できます。
発展途上国でのロタウイルス胃腸炎はもっと深刻
発展途上国では栄養不良や適切な飲料水がない地域も数多くあり、ロタウイルス感染で死亡する例も珍しくありません。
日本にいると考えられませんが、途上国ではかなりの数の子供がロタウイルスで亡くなっています:
- 年間 50万人がロタウイルス胃腸炎で死亡
- 毎日 1000〜2000人がロタウイルス胃腸炎による脱水症で死亡
といわれています。
ロタウイルスワクチンの有効性
米国でのデータになりますが、ロタウイルスワクチンは、小児100万人あたり、
- 医療機関受診数が減少した:143,000人 → 30,000人
- 入院患者が減少した:16,000人 → 100人
- 死亡数が減少した:6〜12人 → 1人
というデータがあります。 (* ワクチン導入前 → 導入後)
このように、ロタウイルス・ワクチンは医療コストを軽減し、罹患率、致死率などを低下させた実績のある、大変有効なワクチンといえます。
ロタリックスについて
ロタリックスは、2008年にアメリカで、2011年に日本で導入されました。
ワクチンの導入が世界的に見ても遅すぎる日本ですが、ロタウイルスワクチンに関しては比較的速やかに導入されたといってよいでしょう。
早急に導入するくらい、実績のあるワクチンともいえます。
ロタリックスは2回接種で免疫がつきます
ロタリックスについて ヒト・ロタウイルスを弱毒化し、ワクチンにしました。
ワクチンには5万 pfu/ strain (1種類)のウイルスがいます。
G1P[8] 1種類のワクチンですので、2回接種すれば免疫がしっかりとつきます
ロタリックスの有効性について
ロタリックスは、ラテンアメリカ・フィンランドを含む11カ国において、63,225例の生後2, 4ヶ月時の乳児に経口投与をしました。
結果は:
- 重症なロタウイルス感染を85% 減らした(95%信頼区間 72-92%)
- ロタウイルス感染に伴う入院を85%減らした (95%信頼区間 70-94%)
という効果でした。
このように、ロタリックスは重症ロタウイルス感染およびロタウイルスに伴う入院を著しく低下させています。
ロタリックスとロタテックの違いについて
ロタリックスの特徴は;
- ウイルスは1種類
- 接種回数は2回
- 接種開始:1回目は20週まで、2回目は24週まで
となっています。
一方、ロタテックは;
- ウイルスは5種類
- 接種回数は3回
- 初回接種は24週まで、2回目は28週まで、3回目は32週まで
となっています。
ロタテック | ロタリックス | |
---|---|---|
ウイルス価 | 5 | 1 |
接種回数 | 3 | 2 |
接種週数 | ||
1回目 | 24 | 20 |
2回目 | 28 | 24 |
3回目 | 32 | なし |
ロタリックスは2回投与で終了でき、ロタテックの3回投与で、ロタリックスもロタテックもそれほど効果は変わらないため、ロタリックスを好む医療機関が多い印象です。
ロタウイルスワクチンと腸重積について
1999年に、『ロタシールド』という最初のワクチンが導入されましたが、腸重積のリスクを上げるかもしれないため、発売が中止されました。
ロタシールドについて
『ロタシールド』はサル・ロタウイルスから作られたワクチンです。
4種類のロタウイルスが含まれています。
G1, G2 G4 + RRV (サルロタウイルス)の4種類です。
腸重積について
腸重積とは、上のイラストの右側のように、腸が腸の間に入ってしまい、腸を閉塞させてしまう病気のことをいいます。
ロタシールドの有効性と腸重積について
初代のロタウイルスワクチンも罹患率、入院数、重症化予防を認めていました:
- 医療機関への受診を減らした (143,000例 → 30,000例):
- 入院数を減少させた(16,000例 → 100例)
- 死亡数を減少させた(6〜12例 → 1例)
があります。
しかし、このワクチンには腸重積のリスクが少し上昇してしまいました:
- 腸重積:580例 → 680例
このため、ロタ・シールドの販売は中止となったのです。
ロタリックスやロタテックは大丈夫か!?
ロタリックス・ロタテックの安全性の説明の前に、腸重積の頻度について説明しておきます。
よく一般の方が誤解しているのは『ロタウイルスワクチンを使用しなければ、腸重積にならない』と勘違いしている点です。
まず原則として、ワクチンを使用しなくとも『腸重積は10,000人に1人くらい罹患する』ことがわかっています。
ワクチン接種した場合のデータですが;
- ロタリックスは”60,000〜90,000人に1人”が腸重積を発症した (メキシコ)
- ロタテックでは”60,000〜90,000人に1人”が腸重積を発症した (オーストラリア)
と報告されています。
つまり、集団全体としてみると、 新しいロタウイルスワクチンは腸重積のリスクは上昇していません。
その他の参考文献
- 予防接種と子供の健康(2016年度版) 予防接種ガイドライン等検討委員会
- 小児科学. p472-473.