小児科医になりたての頃、よく指導医にいわれたことが「正常なこどもの経過をよく知りなさい」でした。
確かに、「異常」を知るには「正常」を知らないといけないです。例えば、かぜの自然経過を知ることは、小児科の診療では必須の知識ですが、意外としらない医療者が多いのも現実です。(以下に寄稿↓)
子供がかぜをひいても、「受診」や「かぜ薬」が必須ではない理由
今回は、RSウイルスの自然経過を提示した症例集積をみつけたため、解説していこうとおもいます。
- RSウイルス感染の症例集積
- かぜでも細気管支炎でも、排泄期間はそれほど変わらないかも
King JC, et al. Respiratory syncytial virus illness in human immunodeficiency virus- and non-infected children. PIDJ. 1993;12:733-9.
研究の方法
今回の対象となったのは、
- 1990〜1993年のコホート
- 4ヶ月以下の乳幼児を対象にリクルート
されたデータを利用しています。
アウトカムについて
アウトカムに関しては、
- RSV感染
- 細気管支炎 or 肺炎
- ウイルスの排泄期間
などを見ています。
研究結果と考察
最終的に、基礎疾患のない小児は48人いて、13人がRSウイルスに感染しました。
患者背景と診断
患者背景と罹病期間、RSウイルスの排泄期間は以下の通りでした:
月齢 | 診断 | 病期間 | 排泄期間 |
14.7 | 上気道炎 | 4 | N/A |
12.8 | 上気道炎 | 6 | 6 |
16.5 | 上気道炎 | 2 | 14 |
27.5 | 上気道炎 | 1 | 1 |
22.6 | 上気道炎 | 2 | 12 |
33.5 | クループ | 13 | 6 |
1.3 | 細気管支炎 | 8 | N/A |
7.3 | 細気管支炎 | 12 | N/A |
6.2 | 細気管支炎 | 20 | 14 |
5.1 | 細気管支炎 | 14 | 6 |
1.5 | 細気管支炎 | 9 | 1 |
0.6 | 細気管支炎 | 17 | 1 |
18.9 | 肺炎 | 8 | 6 |
月齢が低いほど細気管支炎が多いですね。当たり前の結果ですが、上気道炎で軽快した小児は症状のある期間は1週間以内くらいで軽快しています。一方で、細気管支炎の場合は2−3週間ほど症状の改善に時間がかかっています。
興味深いのは、上気道炎でも細気管支炎でも、ウイルスの排泄期間があまりかわらなそうなデータですね。
上気道炎 vs. 細気管支炎の比較
中央値 | 体温 | 呼吸数 | SpO2 |
上気道炎 | 37.6 (37.4-8.5) |
34 (24-50) |
98 (97-100) |
下気道炎 | 38.1 (36.6-8.9) |
48 (32-66) |
97.5 (93-100) |
当たり前の結果ですが、細気管支炎・肺炎といった下気道感染症のほうが、やや熱が高く、呼吸数が早い傾向にありますね。
感想と考察
素朴な症例集積ですが、面白い結果と思いました。
例えば、上気道炎でも細気管支炎でも、RSウイルスの排泄期間はそれほど変わらない印象です。つまり、「症状が軽快したから RSウイルスの排泄はされない」というのは成立しないし、「症状が軽快していないから、RSウイルスは排泄されている」も成立しないのです。
よく登園の許可を小児科外来で依頼されることがあるようですが、RSウイルスの感染予防という意味では、あまり有意義でないのが分かります。普通なら、「咳がよくなったから、登園しても大丈夫ね」ということになると思います。
これは、「発熱なく、咳もひどくないから、登園しても、普通に生活できそうだね」という保証にはなりえますが、「この状態なら周囲のお子さんに感染させない」というお墨付きを与えることは不可能に近いです。
このあたり、保育園・幼稚園と医療者での知識に大きな乖離があるような気がします。
まとめ
RSウイルスに罹患した小児の症状やウイルスの排泄期間を調査した症例集積でした。
軽症でも2週間にわたり排泄することもあれば、気管支炎でも症状が軽快する前に排泄しなくなることもあるようです。
なかなか興味深い結果ですね。
- RSウイルス感染の症例集積
- かぜでも細気管支炎でも、排泄期間はそれほど変わらないかも