前回、フランス国内でのカルボシステイン(ムコダイン®︎)の重篤な副作用の報告について説明してきました。
重篤な副作用の報告は基本的に症例報告形式ですので、どうしても極端な例が集まりすぎてしまいます。
また、これらの報告では、「じゃあ、実際に何%くらいがカルボシステインを使用して副作用になるの?」という単純な質問に答えることができません。
そこで、再度、コクランのシステマティック・レビューとメタ解析の論文に戻って解説してみましょう。
幸い、こちらの研究では副作用についても言及しています。
カルボシステイン(ムコダイン®︎)の副作用の報告
前回、説明した重篤な副作用の報告を集積した研究を見てしまうと「カルボシステイン(ムコダイン®︎)って本当に大丈夫なの?」と思われたかもしれません。
ですが、2歳以上に関しては基本的にはカルボシステイン(ムコダイン®︎)は安全性の高い薬と考えられています。
以下に副作用の報告をまとめていきます。
頻度 | 内容 | |
Careddu, 1989 (伊)*1 Malka, 1990 (伯)*2 |
19/146 | 嘔吐・下痢 |
Gauider, 1968 (仏)*3 Michael, 1986 (独)*4 |
13/500 | 嘔吐・下痢・胃痛 |
*1, Giornale Italiano Delle Malattie Del Torace 1989;43:47‐52.
*2, Medicina Infantil 1990;97:687‐92.
*3, Laboratoires Joullie, Paris1968.
*4, Therapiewoche 1986;36:4440‐5
これら2つの報告を統合すると、646人中32人が嘔吐・下痢など消化器系の副作用を認めていたことになります。
あまり意味のある作業でないかもしれないですが、95%信頼区間を加味すると(Stata®︎を使用)、副作用の頻度は以下のようになります。
- 4.95% (95%CI, 3.41%〜6.92%)
2歳未満における副作用について
生後24ヶ月以下の乳幼児に限定する、副作用の割合を示してデータはかなり限定されます。
スロバキアのBanovcinらにより行われた研究では、26人が臨床研究でカルボシステインの投与を受けましたが、副作用の報告はなかった(0/26)としています。
この割合を95%CI付きで報告をすると、
- 0% (95%CI, 0%〜13.2%)
となります。
日本だけでなく、欧州でもよく処方される機会の多い薬のようなので(一部の国は処方制限あり)、もう少し副作用の報告を研究した論文があっても良いのかもしれない、と考えています。
問題点
問題点としては、こういった割と軽度の副作用でなく、重篤な副作用の発症率が不明な点です。
例えば、昨日議論した呼吸状態の増悪がどのくらいの発症率で起こっているのかは不明のままです。
(すごく頻度の多いものではないと思いますが、どのくらいの確率かがわからないと、臨床医としても少し気持ち悪いですね)
まとめ
コクランによると、カルボシステイン(ムコダイン®︎)の副作用は全体で5%ほどで、嘔吐・下痢といった消化器症状がメインのようです。
しかし、2歳未満の有効性を示唆した研究数も少なく点を考えると、副作用の発症率を正確に推定することも困難です。なおかつ、重篤な副作用の報告が他国で報告されていることを背景とすると、この年齢への投与は慎重にならざるを得ません。
日本国内ではあまり議論にならないですが、特に乳幼児への風邪薬の投与を見直す機会がもう少し増えてくればと思います。
小児へのカルボシステイン投与の副作用は…
- 嘔吐・下痢・胃痛は5%程度
- 呼吸状態の悪化の発症率は不明
- 2歳未満への有効性は不明確で、(高くはないと思うが)頻度不明の重篤な副作用の報告があり、慎重に投与したほうがよいかもしれない
と考えています。