スクリーンタイム(テレビなどの画面の視聴時間)について、18〜24ヶ月未満の乳幼児は、基本的に設けないことが推奨されています。なた、2〜5歳に関しては、1時間未満が良いとされています。
今回の研究では、スクリーンタイムと自己制御(self-regulation)の関連性を検討しています。
- スクリーンへの暴露と社会性・感情面での問題との関連性を検討
- 社会性・感情面での問題のある小児は、よりスクリーンへの暴露がある傾向
- 落ち着かせるため、平穏を保つためといった理由が多かった
スクリーンタイムは、米国小児科学会は2016年の改訂で、2歳未満は0時間(みせないこと)、2〜5歳は1時間までを推奨しています。テレビなどを観る際も、保護者と一緒にみることを推奨しています。
オーストラリアも似たような方針を出しています。
研究の概要
背景・目的:
行動が困難な乳幼児の親は、心を落ち着かせる手段としてテレビやビデオを不釣り合いに利用していることが知られている。
一方で、モバイル技術(携帯電話やタブレットなど)がどの程度この目的に利用されているかに関する公表されたデータはない。
これまでの定性的研究によると、「親が子どもの行動や発達をコントロールしている」という感覚が、スクリーンタイムの上限の設定や子どもの難しい行動への対処への決定に関与していると考えられている。
したがって、著者らは、幼児の社会的感情的発達とスクリーンタイムの関連性を調べ、この関連性が保護者の「コントロールしている」という感覚によって修正されるかどうかを決定しようとした。
方法
著者らは、都市のプライマリーケアクリニックと3つの医療センターで行われた。
15〜36か月の健康な小児の144人が対象で、保護者は英語またはスペイン語を話すことを条件とした。
調査指導、質問、回答選択は研究支援者が参加者に読み上げた。
人口統計学的情報を収集した後、乳児または就学前児童の症状チェックリストを用いて社会‐感情発達を評価した。
子供のモバイル・メディアの使用について、
- 子供を落ち着かせる
- 静かにさせる
- 食事中
- 公衆の中(外出先など)
- 家事をする
- 就寝時
など、様々な状況で子供がスマートフォンやタブレットを使用できる可能性について質問した。
親の意見調査のうち6項目は、子供の発達、社会的関係および行動に関して親の認識されたコントロールを評価した。
多変量ロジスティック回帰を用いて、様々な状況で「小児が携帯電話などメディアを使用できる可能性が多少/非常に高い」をアウトカムとし、統計モデルを組み立てた。
統計モデルに入れた予測因子としては、
- 社会・感情面のスコア:the Baby or Preschool Pediatric Symptom Checklist
を使用し、共変量で交絡を調整した。
オッズ比が10%以上変化した全共変量を用いて制御した。
次に、中央値で分割した親の知覚対照による層別化分析を行った。サンプルサイズの制限のため、相互作用の検定は実施されなかった。
結果:
保護者は、非白人 (78.7%) および外国出生 (64.0%) の母親 (81.3%) が多かった。保護者の平均 年齢は31.6 (SD, 7.2) であった。
社会的感情的問題のある小児とは、乳児または就学前の小児の症状チェックリストのスコアが9以上と定義し、144人中58人 [40.3%]が該当した。
社会的感情的問題のない小児と比較して、社会的感情的問題のある小児は、
- 動揺しているときに心を落ち着かせるツールとして(61.8%対38.1%)
- 家の中で平和と静けさを保つため(69.6%対51.2%)
モバイル技術を与えられている割合が高かった。
食事、人の前、家事・雑用、就寝時など他の状況ではこのような差は見られなかった。
交絡因子を調整した後も、社会的感情的困難とモバイル技術の利用との関連性を認めた。
このような関連性は、スクリーンによって小児をコントロールできるという感覚の強い親の方が高い傾向にあった:
- 静かにさせる(調整オッズ比 [AOR] 、7.63 [95% CI、2.07-28.1] vs AOR、1.52 [95% CI、0.45-5.13])
- 家の中の平和と静けさを維持する(AOR、6.48 [95% CI、1.52-27.7] vs AOR、2.90 [95% CI、0.75-11.2])
結論
この横断調査は、幼児における社会的感情的困難の増加と、子供を落ち着かせたり静かにさせたりするためにモバイル技術を使用する親の傾向が示唆された。
特に子供の行動と発達に対して「コントロールできる」と認識した親で、この傾向は強かった。
逆の因果関係もこの知見を説明することができる(メディアへの露出→社会感情の発達)。
子どもの行動に対する欲求不満への対処として、デジタルメディアの使用につながるという仮説を探るため、意図的に認知されたコントロールによる分析を層別化した。
しかし、これらの結果は探索的なものであり、中程度の規模の低所得層のサンプルから得られたものであるため、一般化可能性は低いのかもしれない。
デジタル技術の使用と子供の発達の軌跡の間の取引関係を理解するために、縦断的研究が必要である。
考察と感想
この研究の方向性ですが、「社会性や感情面での問題→スクリーンタイム」を見ています。この傾向は、メディアへの暴露で子供をコントロールできると考える親に強い傾向があったようです。
しかし、研究のデザイン上はこの因果の逆転もあり得るという趣旨が記されていますね。
まとめ
今回は、社会性や感情面での問題を抱える小児は、スクリーンへ暴露している傾向にあったようです。特に、子供を落ち着かせるため、家の中での平穏のため、といった理由が多かったようです。
この傾向は「スクリーンで子供の問題行動を制御できる」と考える保護者でよく認められていたようです。
Dr. KIDが執筆した医学書:
小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/21 02:10:50時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています
当ブログの注意点について