今回はこちらの論文をピックアップしました。次サリチル酸ビスマスの小児の研究結果を簡単にまとめてある論文で、無料で見られるので気になった方は読んでみると良いでしょう。
著者からのクイズ
南アメリカから帰国した5歳の小児が、下痢に対して次サリチル酸ビスマスが処方されていました。この診療は推奨されるべきなのでしょうか?
著者の答え
南米の途上国を中心に行われたランダム化比較試験では、次サリチル酸ビスマスの有効性が報告されています。例えば、下痢の期間を短くしたり、入院期間を短縮させる効果を認めています。
しかし、これらの有効性は限定的です。つまり、
- 先進国でも同じように有効性を認めるかわからない
- 1990年代と現代では小児の下痢の原因(病原体)が異なるかもしれない
(ロタウイルス etc.) - プロバイオティクスと比較した研究がない
など、過去の研究結果にも懸念点が多数あります。さらに、
- サリチル酸を小児に使用するとライ症候群を起こす可能性があること
- 小児が内服のコンプライアンスを守れるかわからないこと
- Cost-effectivenessの研究がされていないこと
などの問題点も残っています。
これらを総合的に考えると、現時点では次サリチル酸ビスマスに対して、強い推奨をするのは困難なように思います。
ビスマスについて
医薬品に用いられるビスマス化合物には、
- 次硝酸ビスマス
- 次炭酸ビスマス
- 次サリチル酸ビスマス
- 次没食子酸ビスマス。
の4種類があります。
ビスマスは、収斂・粘膜保護作用、また腸内異常発酵によって生じた硫化水素を結合して除去するため、胃痛、下痢などに内服で用いられています。
さらに、コレラ毒素などの分泌を抑制する作用もあると考えられています。
一方で、止痢剤として繁用されていたビスマスですが、大量投与による精神・神経症状が報告されており、一般医薬品としての使用が禁止されている国もあるようです(オーストラリアやフランス)。
次サリチル酸ビスマスの有効性を検討した研究について
これまでご紹介してきた研究を簡単に紹介していきましょう。
ペルー編
こちらの研究では、次サリチル酸ビスマスを内服すると
- 下痢の期間が短縮し
- 嘔吐や下痢の量が少なく
- 1日弱ほど早期に退院する
傾向にありました。
治療開始5日後(120時間後)に下痢が軽快している可能性をアウトカムとすると、NNTは7〜8程度と考えられています。
チリ編
こちらの研究はチリで行われたもので、乳幼児を対象に次サリチル酸ビスマスの有効性を検討しています。こちらの研究では、次サリチル酸ビスマスを使用すると、
- 水様便が1.4日ほど短くなる
- 軟便が2.0日ほど短くなる
- 入院期間が1.6日ほど短くなる
と報告されています。
バングラディッシュ編
こちらはバングラディッシュで行われた研究ですが、
- 下痢の期間が6時間ほど短縮する
- 下痢の量が減る
といった報告がされています。ただし、この報告では統計学的な有意差はありませんでした。
考察と感想
この3つのデータだけみると、次サリチル酸ビスマスに有効性がありそうな気がしますね。さらに、これらの研究では副作用の報告もありませんでした。
コストに対する懸念
例えば、こちらの論文でコストに対する懸念が記載されていました。
こちらの論文によると、次サリチル酸ビスマスにかかるコストが1処方あたり$3.5ほどで、世界で15億ほどのエピソードがあるから、50億ドルほどコストが余計にかかると書かれています。
このコストを誰が支払うのかと著者は述べています。
批判を恐れずに言うと、この議論の仕方は少しアンフェアな気がします。というのも、すでにこの時代からプロバイオティクスの有効性は証明されており、コストを余分に支払うという議論は正しくなく、プロバイオティクスと次サリチル酸ビスマスを比較した上で考えるほうが建設的ではないかと考えました。
コンプライアンスに対する懸念
次サリチル酸ビスマスは5〜6時間毎に飲ませる必要があるそうです。
成人であればあまり問題ないのかもしれませんが、お子さんに1日4回の投与はかなり保護者に負担がかかるか、コンプライアンスが守れず、薬の効果が十分に認められない可能性もあります。
安全性に対する懸念
次サリチル酸ビスマスにはサリチル酸が含まれており、ライ症候群を起こす懸念があるとこの論文の著者は指摘しています。
一方で、こちらの論文の著者らは、ライ症候群を認めた薬はアスピリンが中心で、次サリチル酸ビスマスが血中サリチル酸濃度を上げる作用はすくないため、安全であると主張しています。
このあたりは、少しブラックボックスで、著者にもう少し踏み込んで解説して欲しかったですね。
まとめ
次サリチル酸ビスマスは小児の下痢に有効性を示した研究は複数ありますし、研究結果を見る限りは安全性がありそうな印象です。
しかし、コスト、コンプライアンス、ライ症候群のリスクなどの懸念事項や、この研究が行われてから20年以上が経過しており、外的妥当性・一般化可能性も憂慮されています。検討事項が多いまま、現代では使用されなくなってしまったようですね。