2月中旬から小児に特化して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の文献を読み、ブログ記事にし、noteにまとめるという作業を行ってきました。
開始当初は小児のデータが少なく、なかなか全体像が掴めませんでした。この記事の執筆時点(4/03)でも、データは十分とは言い難いですが、幾分か情報が増えてきています。
基本的にまとめはnoteのほうに記載していますが、文献を羅列した形式になっており「結局、どう解釈してよいか分からない」と思われる方もいるでしょう。
このため、ここで一旦、1ヶ月半の情報をまとめてみようと思います。
小児の新型コロナウイルス感染症について
2019年12月、中国の湖北省武漢市(人口900万人の都市、湖北省の人口は5800万人)で新たな感染症が発生しました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群-コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)という7番目のコロナウイルスへの感染によります。(1)
以降、この感染症は世界的に拡大し、日本を含む様々な国の小児の患者数も増加傾向にあります。
2月下旬から小児の症例報告例が徐々に増えてきて、その後に症例集積、病院レベルでの観察研究などの結果が増えてきています。さらに、2020年1月1日〜3月18日までに報告された45の文献のシステマティック・レビューも出版されました。(1)
今回は、これらの文献を参考に、小児の新型コロナウイルスの情報をまとめてみました。
小児の感染者について
中国、イタリア、アメリカの小児の感染例は以下の通りでした:
やや古い情報も多いですが、新型コロナウイルスの感染者数全体からすると、小児の症例の割合は低く、いずれの国も5%以下です。
小児の感染はどこから?
過去の症例集積をみると、家族内で既に発症例があり、そこから感染したと考えられる割合が高いです。また、上述の通り、小児の感染者数の割合は低めですが、感染のしやすさは成人とそれほど変わらないという報告もあります(5)。
このように、小児は家族内の感染者から移されることが多いようで、大人が感染しないように気をつけること、家庭内での感染予防が重要といえます。
潜伏期間と排泄期間
潜伏期間
潜伏期間は「ウイルスに感染してから症状が出現するまでの期間」を意味します。小児の報告例は非常に少ないですが、2〜10日程度と推定されています。(7)
排泄期間
ウイルスの排泄期間は、症状の有無とはあまり関係がなく、鼻腔や便から長期間にわたって検出されています。
例えば、咽頭・鼻腔からの排泄は7〜23日の範囲で報告されています。(7) (9)
便に関しては、10日から30日以上の範囲で報告された折、長期間にわたって排泄されているのが分かっています(9)。
ただし、これらはの期間は、あくまでRT-PCR検査で検出された期間が示されています。この検査では、死滅したウイルスの断片も拾ってしまうため、実際に上述の期間で感染性があるのかは不明です。
新型コロナウイルス感染症の症状
新型コロナウイルス感染症の症状の過去の報告をまとめた一覧表は以下の通りです。3月に行われたシステマティックレビュー(1)と、私が個人的に検索してきた論文の結果を合わせています。
小児における新型コロナウイルス感染症ですが、発熱と乾いた咳が主な症状のようです。鼻汁や鼻閉といった鼻の症状は比較的少ない傾向にあります。また、嘔吐・下痢などを認める症状も一部認めています。
また、全体の10%くらいは無症状で経過しているようです。
基本的には軽症で長くても1〜2週間程度で自然軽快することが多いようですが、一部で肺炎になり、さらに重症化することがあるようで、注意が必要です。
1歳未満のみの報告はこちらになります:
1歳未満に対象を絞った報告は少ないですが、1歳以上の小児と似たような傾向にあり、発熱と咳が主な症状のようです。
小児の血液検査の特徴
血液検査の結果をまとめた表は以下の通りです。既報のシステマティック・レビュー(18)を参考に、さらに個人的に調べたデータを追加して作成しました。1〜2例の症例報告は除外しています。
新型コロナウイルス感染症に特徴的な血液検査結果はなさそうで、通常のウイルス感染症でよく見る結果と思います。白血球は正常範囲が多く、CRPは正常範囲か上昇があっても軽度のものが多かったです。LDHが3割ほどで上昇していたようです。
小児のCT所見の特徴
小児においても、CTで異常所見を認める割合はそれなりに高そうです。中には、無症状で画像検査をしたら異常を認めたケースもあるようです。
感染した妊婦から出生した新生児
3月上旬までは、新型コロナウイルスに感染した妊婦から出生する新生児で、感染する例はいませんでした。しかし、その後、徐々に新生児の感染例が報告されつつあります。また、最新の論文では出生した新生児の新型コロナウイルスに対するIgM抗体の上昇が確認されており、垂直感染を来す可能性も示唆されています。
執筆時点(4/3)では、周産期に新型コロナウイルスに感染することで、明らかに重症化した新生児や妊婦の報告例はなさそうです。
致死率と重症化の割合
致死率
中国のCDCからの最初(2/11)に報告された致死率は以下の通りでした 。(26)
2/11時点では19歳未満の小児の感染者数は965名で、死亡したのは10代で1名のみでした。高齢者と比較して、小児が死亡する可能性はかなり低いです。
重症化の割合(武漢)
こちらは後に報告された小児の入院患者における重症化の割合です(致死率ではありません)。(10)
入院患者の重症化の割合は、小児全体で5.8%でした。
年齢層別にみると、1歳未満は10.6%、1〜5歳は7.3%、6〜10歳は4.2%、11〜15歳は4.1%、15歳以上は3.0%です。
年齢が低いほど重症化しやすい傾向は、他のウイルス感染症(インフルエンザやRSウイルスなど)とも類似しており、小児特有の現象でしょう。
ただし、この「重症の割合」の解釈には注意が必要です。対象となったのは、「入院した患者」であり、一般の母集団からサンプルされたデータではありません。このため、小児の感染者全員のうち重症化する割合は、この数値よりかなり低いと考えられます。逆に言うと、ここに報告された重症化の割合は、やや過剰に推定されていると思われます。
さらに、この論文では「疑い症例」も数多く含まれています。つまり、PCRなどでSARS-CoV-2未確定のものが多く含まれています。さらに、他の感染症の否定もどの程度行われていたかも不明です。
重症例の分析
重症となった8例を分析した報告もあります。(27)
年齢の内訳は、1歳未満が2名、1〜5歳が2名、6〜10歳が1名、11〜15歳が3名でした。
重症化した症例全員が多呼吸や呼吸苦といった、気道症状を認めていました。咳や発熱も75%で認めていたようです。また、CTを撮影すると、異常所見は100%で認めており、すりガラス陰影は87.5%で認めていたようです。
症例報告 : ICU入室が必要だった症例
1) 1歳1ヶ月
先天性水腎症のある小児が、6日間の嘔吐と下痢で受診した。その後、容態は悪化し、ARDS・ショック・急性腎不全となり、気管挿管・人工呼吸・血液浄化療法を要した。入院6日目より徐々に改善、10日目に抜管・人工呼吸器の離脱に成功し退院した。
入院期間中に繰り返しPCR検査を行ったところ、新型コロナウイルス陽性が確認された。
参考文献:(11,17,27,28)
2) 新生児
先天性心疾患のある新生児が重症化したとのこと。死亡はしていない?詳細は不明。
参考文献:(17)
3) 8歳
白血病(ALL)のある8歳小児が重症化したと報告あり。詳細は不明。
参考文献:(11) (27)
4) 生後10ヶ月
生後10ヶ月の小児が、入院経過中に腸重積・多臓器不全・ショック状態となった。入院4週間で死亡となった。
参考文献:(11) (27)
5) 13歳
特に基礎疾患のない13歳小児が重症化し、ICUに入室。論文が報告された時点では、まだICUに入室して治療を受けているとのこと。
参考文献:(27)
6) 14歳男児
最初の死亡例と推測されている。詳細は不明
参考文献:(1)(10)
アメリカや欧州からの報告
3/18までのアメリカからの報告(4)になりますが、123人の小児が感染し、入院率は1.6〜2.5%、ICUは0名でした。
しかし、この報告の後に、イリノイ州のシカゴに在住していた1歳未満の乳児の死亡例が報道されています。また、コネクチカット州の生後7週間の乳児が、意識がない状態で病院に搬送され死亡が確認されたようです。
欧州では、ベルギーで12歳の少女の死亡例が報告されています。3日間の熱が続いた後、急に状態が悪化したとされています。また、イギリスでも13歳少年、21歳女性の死亡が報道されています。
アメリカ・欧州の死亡例はまだ詳細な報告がなく、詳しい経過は不明です。
治療の選択肢
この記事を執筆時点(4/3)では、小児においてランダム化比較試験で有効性を示唆された薬剤の報告はありません。過去の症例報告・症例集積とシステマティック・レビューから(1)、以下の治療が主に中国では行われてきたようです(推奨ではありません)。
全身状態
- 酸素投与
- 吸入
- 適切な栄養・水分・電解質
- 解熱剤
- 細菌感染の合併が疑われれば抗菌薬
- 昇圧剤
- 輸血
- 血漿交換
- 血液浄化
- 人工呼吸サポート
- ECMO
経験的に行われてきた新型コロナウイルスに対する治療
- インターフェロンα
- Lopinavir/Litonavir
- IL-6阻害薬
- Arbidol
- Oseltamivirなど抗インフルエンザ薬
- Ribaivrin
- ステロイド
- 免疫グロブリン
- 漢方
実際に使用された薬剤・処置など
中国において、重症とみなされた8例の治療戦略は以下の通りでした(27):
- 酸素投与:6名
- 人工呼吸:2名
- 抗菌薬:5名
- 抗ウイルス薬:8名
- ステロイド:5名
- 免疫グロブリン:4名
- 漢方(詳細不明):4名
- 血漿交換:1名
- 輸血:1名
小児に感染者数や重症な症例数が少ない理由は?
「小児に感染者数が少ない、重症化する例が少ない」はこれまでのデータで示されていますが、その明確な理由は分かっていません。あくまで推測になりますが、複数研究者が考察を述べています。
例えば台湾の小児科医・研究者らが投稿した論文によると、(31)2つの見解が述べられています。
1つは、成人と比較して小児は行動範囲が狭いため、ウイルスに接触する機会が少ないことが原因として考えられます。つまり、家庭で過ごす時間が多かったため、病原体や病気の患者にさらされる機会が少なかっただけかもしれません。これが本当であったら、小児が根本的にウイルスに感染しづらいわけではなく、休校していた学校を再開した場合に、感染者が小児で増加する可能性があります。
2つ目は、小児は本質的に感染しづらい、あるいは感染しても悪化しづらい可能性です。一般的に小児(特に乳幼児・新生児)は感染症に弱いですが、全ての病原体で等しく弱いわけではありません。例えば、風疹は成人の方が全身症状は出やすい傾向にあります。2002年に中国で発生したSARSに関しても、基礎疾患のある高齢者の致死率は50%程度でしたが、小児は0%でした。
新型コロナウイルスで考えられているのは、アンジオテンシン変換酵素II(ACE2)との関連です。ACE2は、SARS-CoVの細胞受容体として知られています。(32)新型コロナウイルス(2019-nCoV)は、かつてのSARS-CoVといくつかのアミノ酸配列は類似しています。このため、ウイルスはACE2を受容体として利用できる可能性がある。
最近の報告によると、ACE2も2019-nCoVの細胞受容体である可能性が高いことが示唆されています。(33,34)小児において、ACE2の成熟度や機能(例:結合能)は成人よりも低い可能性があります。このため、小児は新型コロナウイルスに対して感受性が低いとも推測されています。(35)
まとめ
これまでブログ記事やtwitterを通して報告してきた35の論文の結果をまとめてみました。
小児の新型コロナウイルスの一般的なこと(症状・重症化の割合・画像/血液検査・新生児の例)などを網羅的にまとめてきました。
また分からないことも多いですし、情報も更新され続けているため、期間を開けてversion 2もいつか掲載できればと思います。
参考文献
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