- 果汁(フルーツジュース)はいつから開始して良いですか?
- どのくらい与えても良いですか?
と外来で質問されることがあります。
まずはアメリカ小児科学会(AAP)の小児に対する100%フルーツジュースに対する見解ですが、以下の通りとなります。
年齢 |
方針 |
1歳未満 |
与えるべきでない |
1〜3歳 |
1日あたり120 mlまで |
4〜6歳 |
1日あたり180 mlまで |
7〜18歳 |
1日あたり 240 ml まで |
(*AAP: Heyman MB, et al. Fruit juice in infants, children, and adolescents: current recommendations. Pediatrics. 2017;139(6):e20170967)
Robert Wood Johnson Foundation(ロバート・ウッド・ジョンソン財団)という財団も、微妙に異なるような見解を述べており、以下の通りです。
年齢 |
方針 |
2歳未満 |
与えるべきでない |
2〜4歳 |
1日あたり120 mlまで |
5〜10歳 |
1日あたり180 mlまで |
11〜18歳 |
1日あたり 240 ml まで |
(Robert Wood Johnson Foundation: Healthy Eating Research. Healthier beverage recommendations. March 2013.)
Robert Wood Johnson Foundationのほうが、やや厳しい規準になっています。
この方針にも理由が複数あり、過去の研究を参照して要約すると、以下の点が理由としてあげられます:
- 1歳未満の乳児には、栄養面でのメリットが少なく、デメリットが多い
- 原因不明の下痢になりうる
- フルーツジュースの過剰摂取が小児肥満の原因になりうる
- フルーツジュースの過剰摂取が齲歯(むし歯)の原因になりうる
などがあげられます。
それぞれについて記事が書いてありますので、以下にまとめとして掲載しておきます。
1歳未満の乳児と果汁について
https://www.dr-kid.net/entry-2018-04-07-果汁は1歳になるまでは与えないほうが良い
こちらの記事にまとめてありますが、1歳未満の乳児に果汁を飲ませるメリットは少なく、デメリットが多いので、基本的に果汁を与えない方針がでています。理由としては、
- 母乳や人口乳と比較して、栄養面での利点が少ない
- 過剰摂取は低栄養のリスクになる
- 過剰摂取は慢性的な下痢の原因になりうる
などがあげられます。
果汁の過剰摂取は栄養面で不利
乳幼児は生まれてから最初の数年で、身長・体重が大きくなり、さらに神経も八達していきます。乳幼児の成長・発達には、適切なエネルギー摂取が必要です。離乳食開始前は母乳や人工乳から、さらに離乳食開始後からはバランスのとれた食品から効率的にエネルギーを摂取する必要があります。
果汁の過剰摂取と体重増加不良について
(Smith MM, et al. Excess fruit juice consumption as a contributing factor in nonorganic failure to thrive. Pediatrics. 1994;93:438-43)
こちらの研究はアメリカで報告された症例集積研究になります。乳幼児の体重増加不良でニューヨークに受診した患者のうち、フルーツジュースの過剰摂取が原因と思われる症例をまとめた研究になります。病院に受診する前は、1日あたり平均573 mlものジュースを飲んでいたようです。
この症例の保護者に、フルーツジュースの制限と適切な栄養指導をしたところ、体重は適切な値に戻ったようです。
フルーツジュースの制限と栄養指導をする前後の栄養摂取量の内訳は以下の通りでした。
制限 + 指導 |
前 |
後 |
kcal/kg |
86.5 |
108 |
ジュース摂取 |
573 |
50 |
ジュースからのkcal |
38% |
2.6% |
炭水化物からのkcal |
65% |
47% |
タンパク質からのkcal |
10% |
17% |
脂質からのkcal |
25% |
36% |
栄養指導前はジュースの摂取量は多いもの、体重あたりのエネルギー摂取量は少なく、炭水化物からのエネルギーに依存しているのが分かります。
乳幼児期は成長・発達のため必要なエネルギー摂取量が多く、脂質などから効率に摂取する必要があるのですが、フルーツジュースを大量に飲むことで母乳や人工乳からの栄養摂取が妨げられてしまったのでしょう。
果汁の摂取量と鉄分・亜鉛・脂肪エネルギー比について
(Gibson SA. Non-milk extrinsic sugars in the diets of pre-school children: association with intakes of micronutrients, energy, fat and NSP. Br J Nutr. 1997;78:367-78.)
こちらの研究はイギリスの乳幼児を対象に行われたもので、ミルクや母乳以外からの糖分摂取量(NMES: non-milk extrinsic sugars)と微量元素やエネルギー摂取量を比較しています。
果汁やジュースなどからの糖分摂取量が多くなると、ミルクや母乳以外からの糖分摂取量の値も高くなります。
こちらの研究結果の要約ですが、ミルクや母乳以外からの糖分摂取量(NMES: non-milk extrinsic sugars)が高いと
- 鉄分の摂取不足の傾向にある
- 亜鉛の摂取不足の傾向にある
- 脂肪エネルギー比が低い傾向にある
と分かりました。
例えば、鉄分不足は貧血の原因にもなりますし、近年は小児の脳の発達に影響する報告が数多くされています。
(Lozoff B, et al. Functional significance of early-life iron deficiency: outcomes at 25 years. J Pediatr. 2013;163:1260-6)
さらに、鉄欠乏は熱性けいれんのリスクを上昇させるかもしれないというメタ解析の結果もでています。
(Kwak BO, et al. Relationship between iron deficiency anemia and febrile seizures in children: A systematic review and meta-analysis. Seizure. 2017;52:27-34)
このように、必要以上に果汁やジュースを摂取することで、小児の健康や発達に影響してしまう可能性もあるのです。
乳児における甘い飲料とその後の味覚について
(Beauchamp GK, et al. Acceptance of sweet and salty tastes in 2-year-old children. Appetite. 1984;5:291-305.)
- 小さいころから甘いものを摂取すると、くせになる
とお聞きしたことがある方もいるかもしれません。
こちらの論文では、1歳未満に甘い飲料を飲ませていたグループと、そうでないグループを追跡して、甘い飲料を1回で飲める量を比較しています。
出生直後は、どのグループも甘い飲み物を飲む量は変わりませんでしたが、生後6ヶ月、2歳と年齢があがると、日常的に甘いものを飲んでいる乳幼児のグループは、甘いものほど多くのむ傾向にありました。
一方で、日常的に甘い飲み物を飲んでいないお子さんのグループは、水が出ても、甘い飲み物がでても、同じ量だけ飲んでいました。
こちらの研究では、1歳未満のお子さんが甘い飲料に慣れてしまうと、その後の飲料水からの糖分の摂取や甘さへの好みに将来的に影響するかもしれないことが示唆される結果といえます。
フルーツジュースと小児の肥満について
(Auerbach BJ, et al. Fruit Juice and Change in BMI: A Meta-analysis.Pediatrics. 2017;39. pii: e20162454.)
こちらの研究では、フルーツジュースの摂取量と小児の肥満/BMIの関連性を検討しています。
年齢別にみた結果があり、1日に180〜240 ml以上の100%フルーツジュースを飲ませると、
- 1〜3歳:7年後のBMIが臨床的にも優位なレベルで上昇する
- 7歳以上:BMIの変化はほとんどない
という結果になっています。
こちらの研究結果では、特に小さなお子さんにはフルーツジュースを過剰に飲ませると肥満のリスクになりうる点が示唆されています。一方で、7歳以上の小児に180〜240ml以上のフルーツジュースを飲ませても体重への変化はあまりありませんでしたが、上限については不明な点が多いので、AAPなどの推奨量(〜240 ml/日)にとどめておくのがよいでしょう。
フルーツジュースと小児の酸蝕歯について
(Salas MM, et al. Diet influenced tooth erosion prevalence in children and adolescents: Results of a meta-analysis and meta-regression. J Dent. 2015;43:865-75)
こちらの研究は8〜19歳の小児において、100%フルーツジュースと酸蝕歯の関連性を調査したシステマティック・レビューとメタ解析です。7つの観察研究の結果を統合して統計学的な検定が行われています。
この結果によると、100%フルーツジュースを1日1杯以上、習慣的に飲んでいる小児は、酸蝕歯になるオッズが1.2倍ほど高いと推定されました(95%信頼区間, 1.02〜1.42)。
フルーツジュースと慢性的な下痢について
(Hyams JS, et al. Carbohydrate malabsorption following fruit juice ingestion in young children. Pediatrics. 1988;82:64-68.)
慢性的な下痢の有無にかかわらず、りんご、なし、ソルビトール飲料を飲むと消化不良が起こりやすい傾向にありました。
さらに、一部のお子さんになりますが、フルーツジュースを制限することで、慢性的に持続した下痢が改善しています。特にソルビトールを多く含むフルーツジュースを習慣的に飲んでいると、原因不明の下痢になりうる点がしさされています。
しかし、こちらの研究は参加者数が少なく、断定的なものではない点に留意が必要です。
果物について
ツイッターを介して
- 「果汁じゃなくて、果肉はどうなんですか?」
という質問を多数いただいています。また、果汁の話を聞くと、じゃあ果物も甘いからダメなのか気になる方もいるでしょう。
基本方針として、適切な量の果肉(果物)であれば摂取しても問題ないと考えられていますし、将来にバランスのとれた食生活を送るには、乳児期からバラエティのある食生活をするほうがよいと考えられています。
(Grimm KA, et al. Fruit and Vegetable Intake During Infancy and Early Childhood. Pediatrics. 2014 Sep;134 Suppl 1:S63-9.)
こちらの研究はアメリカで行われたものですが、生後10ヶ月時点で果物や野菜を摂取が不足している小児は、6歳時点でも果物や野菜の摂取が不足する傾向にあるのがわかります。
月齢相当に必要な果物や野菜は摂取していたほうが、将来的にも果物や野菜摂取不足は避けられるかもしれないですね。
生後 |
7〜8ヶ月 |
9〜11ヶ月 |
12〜18ヶ月 |
野菜・果物(g) |
20〜30 g |
30〜40 g |
40〜50 g |
[離乳食 – 厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf)]
離乳食と母乳について
離乳食を開始して、徐々に量や種類が増えてくると、
- 母乳はもうやめたほうがよいですか?
と保護者の方々から質問を受けることがあります。
(Okubo H, et al. Feeding practices in early life and later intake of fruit and vegetables among Japanese toddlers: The Osaka Maternal and Child Health Study. Public Health Nutrition. 2016;19:650-657.)
こちらの研究は、日本人の母子763組のデータを使用して行われたコホート研究です。こちらの研究結果によると、生後6ヶ月以降も母乳を続けていると、
- 2歳時点での野菜摂取不足のリスクが減る
- 2歳時点での果物摂取の頻度には影響がなさそう
という結果がでています。
少なくとも母乳を続けたからといって、果物やの摂取量に悪い影響はなさそうですので、離乳食の進んできて、果物や野菜を摂取するようになっても、母乳については気にする必要はないでしょう。
まとめ
観察研究の結果の寄せ集めがほとんどでして、断定するのは難しいですが、
- 栄養面でのデメリットが多く、乳児の体重増加不良の原因になりうる
- 1歳以降は小児肥満のリスクになりうる
- むし歯のリスクが上昇する
などが示唆される研究結果があります。
以下がAAPの推奨摂取量(上限)ですので、参考にされるとよいでしょう。
年齢 |
方針 |
1歳未満 |
与えるべきでない |
1〜3歳 |
1日あたり120 mlまで |
4〜6歳 |
1日あたり180 mlまで |
7〜18歳 |
1日あたり240 ml まで |