- 「去痰薬(痰切り)として処方されるカルボシステイン(ムコダイン®︎)は小児のかぜに有効性があるの?」
というのが医療者・保護者ともに知りたいことでしょう。
ですが、こんな簡単な質問に答えるのにも窮してしまうほど、小児での臨床研究がされていません。
「PubMed」や「Central」と言った医学系の文献を検索できるサイトでカルボシステイン(ムコダイン®︎)について探そうにも、良さそうな資料にたどり着くのも一苦労です。
カルボシステイン(ムコダイン®︎)については、すでにコクランのシステマティック・レビューとメタ解析がされているようなので、そちらを見つつ、有効性について検討していこうと思います。
コクラン・データベースにおける小児の気道感染症とカルボシステインについて
コクランのシステマティック・レビューとメタ解析では、小児の去痰薬(アセチルシステインとカルボシステイン)が気道感染症に有効であるかを調査しています。
しかし、この論文のアブストラクト(要約)の欠点としては、アセチルシステインとカルボシステインが一緒に報告されており、カルボシステイン(ムコダイン®︎)の有効性についてはかなり曖昧な記載になっています。
そこで、こちらの本文からカルボシステイン(ムコダイン®︎)だけに注目してみていきましょう。
対象となった研究は3つのみ
コクランのアブストラクトには「6つの研究が対象」とされていますが、カルボシステイン(ムコダイン®︎)は3つのみです。
具体的には以下の3つになります。
対象となった研究の特徴は以下の通りになります。
C* = カルボシステイン群
P* = プラセボ群
カルボシステイン(ムコダイン®︎)は昔から使用されている薬ですので、古い研究が多いですね。
その反面、日本国内で多用されている薬にも関わらず、科学的根拠を確認した研究が少ない点に危機感があります。
それぞれの研究結果の要約
コクランに記載されている結果を下に、それぞれの研究をまとめると以下のようになります。アウトカムは4〜7日後の痰がらみが軽快したかをみています。
となっています。
RDだけを見ると、12%〜23%となっており、カルボシステイン(ムコダイン®︎)群のほうが痰の症状は軽快しているように見えます。
しかし、それぞれの研究の95%信頼区間を見ると、Zaniniらの研究では0%をまたいでおり、統計学的な有意差がないのが分かります。
著者らはこれらのデータを用いてメタ解析はしていないようです。
推測するに、研究数、サンプル数がともに少なくてやめたのかもしれません。
点推定(今回でいうとRD)と95%信頼区間があれば解析はできますので、私のソフトウェア(Stata®︎)でやってみましょう。
ランダム効果(+Mantel-Haenzel weight)を使用してメタ解析をしてみました。メインの結果は、
- Risk Difference, 18%; 95%CI, 7% to 29%; P-value, 0.002
という結果でした。(解析コードはこちら)
これだけ見るとカルボシステイン(ムコダイン®︎)は4〜7日後の痰の有無においては、有効性があるのかもしれないという結果です。
考察
アスベリン®︎などに比較すれば、カルボシステイン(ムコダイン®︎)は臨床研究が少なからずされており、科学的根拠も全くないというわけではなさそうです。
私の興味もあり、あえて3つの研究でメタ解析をしましたが、カルボシステイン(ムコダイン®︎)は効果がありそうという結果になっています。
しかし、メタ解析には少なくとも5つ以上の研究があったほうが好ましいと考える疫学者が多いです。
私も3つではさすがにメタ解析をする研究数としては少ないので、さすがに自信を持って有効性があるとは言えないと思います。(多少は期待をしても良いのかもしれませんが)
解釈も非常に難しいです。
なぜなら1970-90年代に行われた研究ばかりで、現状にマッチしてくれるのか少々疑問が残ります。
また、研究されている年齢層もややばらつきがあります。
特に日本の小児科外来では、風邪で受診するお子さんは圧倒的に2〜3歳以下の乳幼児が多いです。
私が行った解析結果も、この年齢層の患者数は少ないと思います。どこまで解釈して良いか、つまり「本当に乳幼児に有効か?」はこの結果のみで単純に判断できないでしょう。
まとめ
今回はカルボシステイン(ムコダイン®︎)が小児の気道感染症(風邪や気管支炎)で有効性があるのか、システマティック・レビューとメタ解析の結果を参照しつつ解析してきました。
結果としては、カルボシステイン(ムコダイン®︎)は痰を除去するという意味では、多少は有効性があるのかもしれませんが、はっきりと明言するのは難しいでしょう。
現代でRCTを使用してカルボシステイン(ムコダイン®︎)の有効性を検討するのは、やや難しいかもしれませんね。
観察研究でも良いので、もう少し情報が欲しいです。
小児のかぜにカルボシステイン(ムコダイン®︎)は、かぜによる痰がらみに…
- 多少は有効であるかもしれないが…
- 乳幼児でのエビデンスレベルはさらに低くなる
- 副作用などのデメリットも考えるべき
Dr.KID