アスベリン®︎(チペピジン)は小児の咳止め薬として昔からお馴染みです。
咳止め薬というと、コデインやメジコン®︎(デキストロメトルファン)などがありますが、これらは咳止めとして有効性は多少はあるのかもしれませんが、重篤な副作用が指摘されており、小児での使用は推奨されていません。
アスベリン®︎は古くから使用されていますが、正直なところ、有効性を正しく検証された研究は皆無です。アスベリン®︎は、メジコンやコデインよりも「弱い」咳止めという立場ですが、本当に咳止めとしての効果があるのけ、十分に検証されずに、いまだに使用されてしまっている現状があります。
そこで今回の研究が行われたようです。
急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒベンズ酸塩の効果 外来小児科 22(2): 124-132, 2019
最近、国内で発表された論文のようで全然気がつかなかったのですが、名郷先生に教えていただきました。名郷先生の書籍を推薦↓↓
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研究の方法
今回の研究は、
- 14の小児診療所
- 2018年
- 1歳〜就学前
- 急性上気道炎
- 基礎疾患なし
を対象にランダム化比較試験が行われました。盲検化は行われていないようです。
治療は、
- カルボシステイン(ムコダイン®︎)
- カルボシステイン(ムコダイン®︎)+ チペピジン(アスベリン®︎)
のいずれかをランダムに投与して、アウトカムを比較しています。
アウトカムは、
- 咳の強さ
- 食欲不振
- 遊び
- 夜間睡眠
などを比較しています。咳だけをフォーカスしようと思います。
研究結果と考察
最終的に126 + 126 = 252人の患者が解析対象となっています。患者背景は、
- 平均2歳半
- 男女比はほぼ1;1
- 8割が集団生活あり
- 父親の喫煙 30%
- 母親の喫煙 5%
- 体温37度前半
でした。
咳の症状の推移
咳の症状を5点満点で評価し、
- 弱い
- やや弱い
- 中等度
- かなり強い
- 非常に強い
の5段階評価です。スコアの中央値を比較しています。
C | C + T | |
前 | 3 | 3 |
後 | 2 | 3 |
改善度(差) | 1 (0-2) |
0 (0-1) |
中央値で比較をしていますが、カルボシステイン単独(C)の方が、チペピジン併用(C + T)より、咳の改善度は大きいです。
また、咳の症状を
- 良くなった
- 変わらない
- 悪くなった
の3段階で2日後に評価していますが、良くなったと答える方の割合はカルボシステイン単独の方が多かったです。
C | C+P | |
良くなった | 64.3% | 46.4% |
変わらない | 26.2% | 40% |
悪くなった | 9.5% | 13.6% |
咳の改善度をグラフにしたものは以下の通りです。
こちらの図は0がカルボシステイン単独、1がチペジピン併用群を示しています。縦軸は症例数が、横軸は咳症状のスコアの差を表しています。
こちらのグラフを見ても、カルボシステイン単独の方がスコアの差は低い傾向にあるのがわかります。逆にいうと、チペジピンを追加するメリットはあまりなさそうで、むしろ咳の症状の改善を妨げるかもしれません。
感想と考察
日本国内の小児でこのような研究が進んでいくのは良いですね。
小児科で使用する薬は多数あります。特に小児の場合、感冒や胃腸炎で外来受診する患者がほとんどであるのに、これらの薬に対するエビデンスの精査が非常に不足しています。
今回行われたアスベリン®︎もそうですし、国内でムコダイン、ムコソルバン、整腸剤などの有効性をきちんと評価した研究は非常に限られています。
小児は無料化のため、過剰アクセスになっている状態です。逆にいうと、アクセス過剰な中、エビデンスのない薬を使用を続けることは、医療費を垂れ流すことになり、製薬会社以外にメリットはほとんどありません。無料化を続けるのであれば、こういった研究を多数行なって、医療の最適化を目指していくのは、非常に望ましい方向と考えています。
まとめ
今回の日本国内の研究では、アスベリン®︎を小児の感冒で使用するメリットはほとんどなさそうでした。
この結果を受けて、小児を診療する医師の診療パターンがどのように変わっていくかは楽しみですね。