英文誌での発表は少ないのですが、日本国内の雑誌であれば、トラネキサム酸(トランサミン®︎)の有効性を報告した研究は複数あるようです。
随分と昔の研究ですが、1968年頃に行われた国内のランダム化比較試験の文献を手に入れることが出来たため、こちらで報告させていただきます。
Saito H, et al. 耳鼻咽喉科領域におけるTransaminの臨床効果について–Double Blind Methodによる-
研究の方法
今回の研究は1968年から、日本国内のとある大学病院の耳鼻咽喉科外来で行われました。
対象となった疾患は、
- 急性扁桃炎
- 急性咽頭炎
- 口内炎
となります。対象年齢は7〜62歳までで、治療は
- トラネキサム酸(トランサミン®︎)
- プラセボ(偽薬)
をランダムに割付る、二重盲検化ランダム化比較試験(RCT)を行いました。
研究初日と5日後に自覚症状・診察所見を評価しています。
研究の結果と考察
合計で106名(男62名、女性44名)が対象患者となりました。治療は以下の通りになります(図は論文より拝借)
それぞれの疾患で分けて、症状の変化を見ながら有効性を検討しています。
有効性の検討はX二乗検定を使っています。
扁桃炎について
扁桃炎の結果は以下の表の通りとなります(論文より拝借):
*の付いているところが統計学有意差ありと判断されたようです。どうやら、「やや有効以上」を有効性ありと定義したようです。
例えば、最初の咽頭痛を見てみましょう。これを手元の統計ソフトでやり直すと、以下のようになります。
確かに有効率は治療群のほうが高そうです。
著者らはX二乗検定を行なっていますが、5以下の数字があるため、正確検定を行った方が良いでしょう。
この辺りも、少し統計のトリックでして、例えば4つ評価カテゴリーをそのまま検定すると有意差は無くなります。
この研究の盲検化が正しく行われ、評価にもバイアスがないのであれば、全体的にはトラネキサム酸の方が有効そうな印象を受けます。
ただ、効果計測の仕方にはやや疑問が残ります。
というのも、有効・無効で分類するより、咽頭痛の期間であったり、強さを数値化した方が良いでしょう。
実際に咽頭痛の患者さんが薬を飲んだとして、
- どのくらい痛みが軽減するか
- どのくらい痛みの期間が短くなるか
の方が興味があると思います。臨床医としても、「有効性がある」と言われても、「どの程度?」「何日くらい?」と疑問が残ってしまいます。
咽頭炎について
咽頭炎についても上のような表になります。
例えば咽頭痛も著者らは有効性ありとしていますが、正確検定にしても有意差はあります。
著者らの定義した有効性であれば、内服した方が1.4倍ほど有効率が高かった(絶対値の差としては28%ほど多い)となります。
こちらの結果を4 x 2のtableのまま検定しても、有効性を示唆する結果となっています。
口内炎
口内炎による口の痛みも見てみましょう。
口内痛も同様でして、有効率は治療群の方が高いです。
正確検定で評価してもP値は変わらなそうですし、
4 x 2 Tableのまま、正確検定をしても同じような結果になります。
感想と考察
論文全体としては、著者らの決めた「有効率」という定義であれば、トラネキサム酸は咽頭炎・扁桃炎・口内炎などに有効性があるのかもしれない、という結果でした。
一方で、今回の研究では、
- じゃあ実際にどのくらい痛みが減るのか?
- 口や喉の痛みは何日ぐらい短くなるのか?
といった、臨床医や患者さんが気になる有効性には答えきれていません。
この辺りは、再検証する価値があるとは思うのですが、なかなか該当論文を見つけ出すことができません。
あとは対象年齢は7歳以上ですので、今回の結果を6歳以下のお子さんにどれだけ一般化できるのか、といったところが難しい問題です。
特に小さなお子さんの痛みの評価は難しく、エビデンスの少なさに影響しているのかもしれません。
まとめ
今回の研究では、7歳以上の咽頭炎・扁桃炎・口内炎にトラネキサム酸の有効性を示唆する結果でした。
「有効性」については、あくまで著者ら(と以前の研究)が定義したもので、実際にどの程度、咽頭痛や口内痛の強さや期間を短縮してくれるのかは、イマイチはっきりしない内容でした。