- 「ヴェポラッブ®︎を塗ると皮膚に焼けるような感覚(灼熱感)がありますが、体温は上がるのだろうか?」
と疑問に思っている方がいるかもしれません。
例えばお子さんが風邪で咳・鼻水・熱があり、咳と鼻水を軽快させたくてヴェポラッブ®︎を塗ろうと思うが、熱が上がってしまうかどうかが気になってしまう方もいるでしょう。
以前、患者さんから質問されて気になって調べたことがありますが、例えばwikipediaにはこんな風に書かれています:
メーカーのサイトを見ても、類似の内容が書かれています。
有効成分が血中に吸収され、体温を上げる作用があるという理屈なのでしょうか。
とはいえ、あくまで「理屈」であり、実際にヒトの体温が上昇するかは別問題です。
今回は、ヴェポラッブ®︎を塗って体温が上昇するか調べた研究がありましたので、ご紹介させていただきます。
ちょっと古い論文ですが、ご容赦くださいね。
研究の方法
今回の研究はオーストリアのインスブルックで行われたようです。対象となった患者は急性気管支炎で入院した小児です。対象となった小児に
- ヴェポラッブ
- ワセリン
をランダムに割付、皮膚温(体表体温)と直腸温(深部体温)の変化を計測しています。皮膚温は胸の皮膚の温度を計測しています。
また、健常児12人からも同様のデータを集めています。
研究結果と考察
こちらが健常児のデータになります。
(図は論文より拝借)
健常児においては、皮膚を擦っても、ワセリンを塗っても、ヴェポラッブを塗っても、直腸温(深部体温)は変わりませんでした。
皮膚温については、皮膚をこすったり、ワセリンを塗ると一時的に上昇しましたが、その後すぐに元に戻りました。
一方、ヴェポラッブを塗った場合は、皮膚温は高い今ま1時間ほど推移しました。
急性気管支炎の入院患者ではどうか?
こちらが気管支炎での入院患者を対象に行われた結果です。
結果は健常児のものと類似しており、
- ヴェポラッブを塗った場合は皮膚温のみが上昇した
- ヴェポラッブを塗っても直腸温(深部体温)は変化させず
- ワセリンは皮膚温にも直腸温にも影響なし
でした。
考察と感想
ヴェポラッブを塗ると、塗った場所の皮膚温(体表の温度)のみ上昇しました。
確かにこの薬をつけると皮膚が焼けるような感覚がありますし、過去の研究でも塗った患者が皮膚の灼熱感を訴えているので、ある意味当然の結果と言えます。
一方で、直腸温(深部体温)には変化がありませんでした。
冒頭に紹介した文章では、体温が上昇することを連想させるような記載でしたが、こちらの論文を読む限りでは、そのような効果はなさそうです。
実際に熱が上がるかは、あまり気にしすぎなくても良い気がしますし、「体を温める効果」はない印象です。
少し研究の問題点についても触れておきましょう。
やや古い研究ですので、あれこれと後出しで難癖つけるのも気が引けますが、こちらの研究では対象となった患者の年齢や性別すら記載されていませんでした。
小児と一括りにしても、0歳児と10歳児では全く別ですし、時に男女で有効性が異なる場合もあります。
今回の研究結果をどこまで一般化すべきかは、判断が難しいです。
まとめ
ヴェポラッブを塗っても深部体温を上昇させる効果はなさそうでした。
一方で、皮膚に灼熱感があるのを証明するかのように、皮膚体温のみ上昇しました。
情報不足な点もあり、どこまで一般化すべきかは、少し難があると思いました。
ヴェポラッブは…
- 体表の温度は1℃ほど上がるが
- 深部体温は変わらない
ワセリンには同じような効果はなさそう… Dr.KID