乳幼児期は気管支喘息と気管支炎の繰り返す症例の区別は難しいことがあります。
とはいえ、気管支喘息のお子さんを振り返ってみると、割とこの時期に喘鳴を繰り返していたというのは、臨床医であればよく経験しているのではないでしょうか。
乳幼児期の感染症というと、ウイルス性がほとんどです。
例えば、RSウイルス、コロナウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザ、アデノウイルス、ボカウイルスなどがパッと思い当たります。
細菌性ですと、インフルエンザ桿菌や肺炎球菌、モラキセラなどが該当すると思います。
成人では、喘息発作にクラミジアやマイコプラズマの関与が示唆されており、これに対してマクロライドを使用したら、わずかではあるが、有効性があったとする研究はあります。
一方で、小児では病原体の疫学が異なるため、この結果を鵜呑みにすることはできません。
そこで、今回の研究が行われたようです。
研究の方法
今回の研究は、デンマークで行われたRCTです。対象となったのは、
- 1-3歳
- 再発性の喘息様症状 (recurrent asthma-like symptom;日本でいう喘息性気管支炎!?)
- 少なくとも 3日以上の経過あり
- 慢性疾患なし
- 肺炎の兆候なし(発熱、CRPの上昇など)
をもとに患者が選ばれています。
治療について
治療は、
- アジスロマイシン 3日
- プラセボ 3日
を使用して、その後の症状の経過を見ています。
アウトカムについて
アウトカムは、
- 呼吸症状の期間
- 副作用
などを検討しています。
研究結果と考察
最終的に72人の小児のうち158回のエピソードが対象となりました。
- アジスロマイシン:79エピソード
- コントロール:79エピソード
となります。
6割が男児、白人が95%以上、アトピーの既往は30%、17q21のvariant (RS2305480)は40%くらいでした。母親の喘息既往は35%ほどです。
喘息様症状の期間
AZM | プラセボ | 比 | |
期間 | 3.4日 | 7.7日 | 63.3% (56%, 69.3%) |
AZMを使用した方が、喘息様の症状は短い傾向にあります。
発熱の有無で層別化した場合
AZM | プラセボ | 比 | |
発熱あり | 3.8日 | 4.9日 | 21.4% (-61.6, 61.8) |
発熱なし | 3.8日 | 7.2日 | 47.3% (2.9, 71.4) |
発熱がある場合の喘鳴の期間は1日ほど短縮していますが、推定値はかなり不正確です。
発熱がない場合、喘鳴の期間はAZMがあると約半分くらいに短縮していますね。
細菌の検出率と症状の期間
咽頭の吸引物からの検出になりますが、PCR検査も行い、検出される期間も比較しています。
細菌 | AZM | プラセボ |
インフルエンザ菌 (24%で陽性) |
2.7日 | 12.1日 |
モラキセラ (47%で陽性) |
4.4日 | 8.7日 |
肺炎球菌 (32%で陽性) |
3.3日 | 6.2日 |
ウイルス | ||
ライノウイルス (43%で陽性) |
4.6日 | 6.9日 |
RSウイルス (16%で陽性) |
3.3日 | 5.9日 |
エンテロウイルス (20%で陽性) |
2.1日 | 6.8日 |
それぞれの菌やウイルスの検出例で喘鳴の期間を比較しています。
どれも似たような結果ですね。細菌に関しては、保菌なのか感染なのかは区別は難しいかと思います。
副作用
AZM | プラセボ | |
副作用 | 18/78 (23%) |
24/79 (30%) |
副作用の頻度もAZMが特別に多いわけではなさそうですね。
考察と感想
素朴なテーマですが、非常に詳細に見ており、RCTのお手本にしたくなるような結果と思いました。
例えば、保菌か感染かの問題はあるにしろ、病原体別に成績を見たり、同一人物の繰り返しのエピソードを統計モデルで対処したりと、きちんと対処されている印象です。
一流雑誌への投稿ですから、この辺りができているのは最低限の条件となるとは思いますが。
この論文のポイントとしては、3日ほどは様子を見ている点かと思いました。
AZMが有効という結果が出ると、「早期から」となってしまいがちですが、この研究ではその点も配慮しており、少なくとも3日以上の症状がある小児を対象にしています。
つまり、喘息様の症状が長引くなら、という条件付きですね。
問題点としては、抗菌薬投与の是非、耐性化の問題、使用すべき対象患者の選別などでしょうか。
マクロライドはアジアでは非常に頻回に使用されており、耐性化は問題視されています。「免疫調整」という名のもとに、過剰処方されてきた現実があります。このため、使用するにしても、適応を考える必要がありますが、この研究では定義するのが難しそうです。
例えば、3歳未満の場合、マクロライドの適応となるマイコプラズマなどの感染例は稀です。乳幼児の喘鳴は自然に治ることが多い中、「症状の期間短縮」のためにどこまで使用すべきかは悩ましいですね。
まとめ
今回の研究では、アジスロマイシンを使用すると、乳幼児の喘息様症状の期間短縮効果がありそうな印象でした。
一方で、自然経過で良くなる喘鳴症状に抗菌薬を使用すべきか、適応症例の選別、過剰使用による耐性化の懸念など、問題点は残っていると思います。
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